男子高校生、転移先で魔王になる

パンジャンドラム

転移と勇者と亡国

第1話 《越後の龍》《甲斐の虎》の子孫、転生す。

 武田家と上杉家は、戦国時代以来犬猿の仲。

 約500年もの間、いがみ合う両家は、現代、それぞれ、軍人と警察官の家系になっても変わらない。

「景虎、また、遅刻? たるみきってるわね」

「たるんでるのは、お前の腹だ」

「1回、死んでみる?」

 ポニーテールの明日香がサーベルを抜く。

 何こいつ、狂犬過ぎだろ?

 武田家は、軍人家系なので、廃刀令や銃刀法無関係にサーベルを持ち続けている。

 当初、警察は、問題視し、発見次第検挙しているのだが、現在は、匙を投げたのか、もう見て見ぬ振りだ。

 世間も、「刃傷沙汰起こしていないからいいんじゃね?」的な空気だ。

 何事もやり続けるのが、いいのだろう(現実逃避)。

 そんな俺達は、腐れ縁だ。

 保育園から今の高校1年までずーっと同じ学校、同じクラスで隣の席。

 多分、親の顔より見たわ。

「……セクハラよ」

「誰が暴力女にセクハラするか」

 言うや否や、サーベルの切先が、頰を掠めた。

 血が垂れる。

 あと、数mmずれていたら、俺の大事な美顔が粉々になっていたね。

 有難う、この運動神経を下さった御先祖様。

「……感謝するのは、寛大な私では?」

 壁に突き刺さったサーベルを抜いた明日香は、ジト目を向ける。

「殺人未遂犯に感謝を?」

「ほー。良い度胸ねー」

 指をポキポキ鳴らしつつ、明日香は、刀身を俺の首にあてがう。

 あら、斬首されちゃう。

 そう思った時、

「こら〜。やめんかあ」

 学級委員の永遠子とわこが走ってきた。

「……チ」

 今、舌打ちしたよね?

 この幼馴染。

 何こいつ?

 永遠子は、俺達の前に着くと、肩で息しつつ、

「明日香ちゃん、駄目でしょ? 抜刀するなら、敷地外じゃなきゃ」

「おーい、俺の人権は?」

 殺人未遂犯の幼馴染。

 何処かずれてる学級委員長。

 俺の周りには、変人ばかりだ。

 誰かこのポジション、変わってくれ。

 100兆ジンバブエドルで良いから。


 景虎の奴、死ね。

 私は、プンスカ怒りつつ、下駄箱で履き替えていた。

 景虎は、スタコラサッサでもう教室だ。

 逃げ足だけは、早い事。

「まあた、彼の事、考えてる?」

 永遠子が、首に腕を回してきた。

「ちょ、近いよ」

「照れてる明日香、可愛い♡」

 首筋にキスされ、私は、赤くなった。

 行動から分かるように、永遠子は、同性愛者だ。

 本人は、「両性愛者」と言っているが、私が見る限り、これまでの交際歴は、全て同性である。

 恐らくは、私もタイプなのだろう。

 有り難い話では、あるものの、私にその性的指向は無い為、この恋は、残念ながら叶う事はない。

それでも関係が崩れないのは、親友だからである。

一部の地方では、未だに理解されない地域もあるようだが、私達の居る都会では、同性婚までは行かないにせよ、パートナーシップ制度なるものがあるように、一定の理解がある。

 私もそんな環境下で育った為、親友が性的少数者でも、良い関係が構築出来ていた。

 景虎も理解者の為、永遠子が女性とイチャイチャしても何も言わない。

 私達3人のこの関係は、永遠に変わらないだろう。

 永遠子も靴を履き替える。

「あ、そういえば」

「何?」

「噂なんだけど、生徒会長が、景虎の事、狙っているらしいよ」

 景虎は、私達には、分からないが、ちょい悪風で女子生徒から一定の人気があった。

 小学生時代は、さほどだったが、中学生になった途端、「悪の色気」と言うのだろうか。

 少し襟足を伸ばし、眉を整えた目つきの悪い幼馴染は、年上から人気を集め、一時は、新卒の教諭と付き合った、という噂が立つくらいであった。

 当時は、思春期真っ只中であり、お互い口を聞かなくなった時期もある為、その噂を聞いた時は、無関心であったが、今は、引っ掛かりを感じるものだ。

 聞きたいけど、距離が近い分、聞きにくい。

 山嵐のジレンマ的なアレだ。

「ふ、ふーん」

 動揺を上手く隠したつもりだったのだが、永遠子は、悪い顔になる。

「告れば良いのに」

「な!」

「じゃなきゃ、私が獲っちゃうよ。アレもタイプだし」

 舌舐めずりを行う。

 「……本気なの?」

 私の目尻に涙が溜まる。

「あー、可愛い可愛い♡」

 私の泣き顔が琴線に触れたのか、永遠子は、涎を垂らす勢いで抱きつき、私の背中を撫であげるのであった。


「なぁなぁ。景虎」

 教室に入るなり、今日も今日とて囲まれる。

 正直、うぜー。

 俺に来るのは、明日香のファンだ。

「紹介してくれよ。幼馴染だろ?」

 言い寄っているのは、他のクラスの男子生徒。

 今まで話したことはないのだが、俺と明日香の仲を聞き付けて、来たようだ。

 この手のことは、よくある話だ。

 こういう直接は勿論のこと、スマートフォンのDMも合わすと、年間1万件くらいだろうか。

 あんな暴力女、何処がいいんだろうか。

 世の中には、マゾヒストも居る為、この男もそういうことなのだろう。

 今、話題の多様性だな(白目)。

「なぁ、紹介してくれよ」

「あいつは、誰の物でもない。興味があるなら、自分でアタックしろ」

「そういう勇気が無いから、お前に―――」

「知らねーよ。馬鹿」

 中指を立てて、追い返す。

 自由恋愛。

 戦国時代では、政略結婚が当たり前だったようだが、今は現代。

 セクハラや法に触れない限り、ナンパは自由だ。

 椅子に座り、机の中に置いておいた教科書を取り出す。

 今日の授業は、世界史だ。

 確か、中世だった筈。

 ガサゴソと、腐ったパンを片付けつつ、漁っていると、

「……ん?」

 くしゃくしゃの紙が出て来た。

 チリ紙で無いことを確認した後、開封の儀。

「……?」

『アナタハ、エラバレマシタ』

 謎の日本語と共に、俺の手元が光り輝いた。


「……?」

 眩しくなくなったことを感じた後、恐る恐る目を開けた。

 辺りは、何処かの森林なようで、緑一色と木の匂いが凄まじい。

(参ったな。今日、遠足だったっけ?)

『慌てる事なかれ』を信条とする上杉家で育った為、こんな瞬間移動では、驚かない。

 異常だろ?

 まぁ、毎日、木刀で幼馴染に襲われていたら、こうもゴ〇ゴ並に冷静沈着になるわな。

「……」

 呼吸を整え、森林を歩く。

 樹木医等の専門家では無い為、判らないが、杉っぽい大木がずらり。

 屋久島みたいだ。

 適当な感想を抱きつつも、ある大木の前に吸い寄せられるように立つ。

「……?」

 その根元が気になり、ふと見下ろすと、狼っぽい生き物が。

「……ガルルルル」

 負傷しているようで、足からは、出血が確認出来た。

 攻撃者は人間なのか、生来の警戒心なのか。

 武器を何一つ持っていない俺に対し、狼(仮)は、犬歯を剥き出しにして、威嚇をやめない。

「……」

 動物好きな俺は、狼(仮)であっても、抵抗は無い。

 流石に狂犬病であれば、ドン引きだが。

 第六感が「この子は大丈夫」と告げていた。

「……?」

 俺の本心が伝わったようで、狼(仮)は、俺の指を舐め始めた。

「……」

 そして、一通り舐め終えた後、狼(仮)は

『……そなたが龍の子孫か?』

「……はい?」

『我が名は、フェンリル。龍に仕える忠狼ちゅうろうなり』

「はい?」

 急展開過ぎて、戸惑う。

 フェンリルって北欧神話に出て来る狼の姿をした化け物だぜ?

『それとも、こちらの姿が御所望か?』

「へ?」

 そう言うと。フェンリルは、仰向けになってへそを見せる。

 所謂、『へそてん』なる妙技だ。

 へそを太陽の方へ向けた。

 次の瞬間、周囲に霧が立ちこみ始め、俺は、眉をひそめた。

「……」

 様子を伺っていると、徐々に霧が晴れていく。

「わん♡」

 目の前には、美女が全裸の上で四つん這いになっていた。

「……」

 家族と幼少期、混浴していた幼馴染以来の異性の裸に、俺は、鼻血を出して倒れるのであった。

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