第34話 兄妹じゃなければいですよね? だって——②

「未那! 聞いているのか未那!」


「聞いてるよ……もう12回目だし……」


 バイトに向かうお兄ちゃんを見送るのだが、一向に家から出ない。まぁ、アタシのことを心配しているからか。


「母さんまたしばらく仕事で家に帰ってこないし、家族で未那を守れるのは俺だけだ。何かあったら……というか些細なことでもいいからお兄ちゃんに連絡するんだぞ!!」


「はいはい分かってます」


「そうか、分かったなら……。……。やっぱり心配だ!!」


「もー早くバイト行きなよ。てか、バイト中に連絡見れないでしょ?」


「そこは店長には話はつけている!」


「つけてるんだ」


 お兄ちゃんってコミュ強だよね。


 昔からこんなだった。だけど高校に入ってからは何故か暗くなって……。高2年の今はまた昔みたい明るい生活に戻ったけど。


 アタシはどんなお兄ちゃんでも好きだ。アタシに構ってくれるならそれでいい。


「じゃあ最後! 最後にもう1回言うぞ! 家から極力出たらダメ! 辰と会ったらすぐに連絡するか悲鳴を上げる! おーけい?」


「おっけい。じゃあいってら〜」

 

 お兄ちゃんの背中を押して、バイトに行かせる。


 ようやく背中が見えなくなったところで家に入った。


 あれから2週間。寝取り男とは会ってない。お兄ちゃんと七香さんのおかげだろう。


「さーて、今日は何しよう。在宅のバイトは今日はないし……あっ、そうだ。凝った料理でも作ろう」


 牛すじ煮込みのビーフシチューとかいいかも。お兄ちゃん凄く気に入ってたし。


 早速準備をする。冷蔵庫を見ると材料は揃っていた。


 鍋で牛すじを煮込んであると、ふと、ファミレスで七香さんと2人っきりになったことを思い出した。


『実はアタシたち——血の繋がった兄妹ではないんです。つまり、アタシは義妹。翔太郎くんを好きで何も悪くない。恋人になれるかは別ですか』


 対抗心を燃やして強気に言ってしまった。後悔はしていない。


 むしろ……


「今日……言おうかな、ちゃんと……」


 言ったことで、お兄ちゃんにも言おうと勇気が出た。


 アタシたちは血が繋がっていない。

 そしてアタシは義妹で貴方のことが好きだと——


 ピンポーン


 チャイム音。火を止め、インターホンで相手の顔を確認。

  

 見たところ宅配の人。顔も見たが……あの寝取り男ではない。なので無視せず玄関に行く。


「はーい」


「あ、どうも宅配便でーす。こちらにサインを〜」


「はいはい」


 お母さんは健康サプリメント、お兄ちゃんはなんか漫画をインターネットで頼んだとか言ってたな。


 何が届いたのか、段ボールに貼っている紙を眺めていると——


 バチバチバチバチ!!!!


「っ!?」


 突然、お腹に痛みが走る。

 男の手にはスタンガンが。


 スタンガンを食らうと気絶するというのは迷信であり、ドラマでよく起こることは嘘。


 ちゃんとしたスタンガンを食らうと人間は激痛と神経を走る電撃で身体に力が入らなくなりへたり込む。意識までは飛ばない。


 ソイツはそれを理解しているのだろう。倒れ込んだアタシの口元にハンカチを当ててきた。


「っ…………」


 だんだん眠くなって……


 ——バタン



「……これでいいっすか辰さん」


「ああ。さっさと工場に運ぶぞ」

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