第8話 アンタの負けよって……え。

「まっ、こうなるわな……」


 カフェに向かう道中。

 3人の後をつけている俺は、朝と変わらない目の前の景色にため息をつく。


「おい、だからくっつくなよ!」


「いーじゃないすか。最後なんですから〜」


「最後でも彼女を差し置いて腕にくっつくなんてダメだよ! 私もくっつくんだから!」


「お、おいっ、遙までっ」


 右からは七香、左からは七香の美少女サンドイッチ。これぞ両手に花。非リア殺しのサンドイッチ。

 

 横並びは迷惑だって学校の先生から言われなかったのかな?


 それにしても勇臣は強く断れない。大体主人公って不甲斐ないけど。

 よくゲーム画面越しに「なんでだよっ! そこは強く断れよっ!」とか台を叩いたことを思い出した。


 この後、ちょっと輩に絡まれて一悶着ある。そこは俺が手出しをしなくても解決するだろう。


 カフェに着いたらどうしたものか……。


 急に絡んでも「はぁ?何こいつ?」と煙たがられて避けられてしまう可能がある。そうなれば今後に影響してしまう。


「ん? 待てよ……同じ学校の生徒だからいけないんだ。他なら……よしっ」


 輩に絡まれる噴水前地点に着いた途端、3人に気付かれないように俺は猛ダッシュで走った。



(七香side)


 はぁ〜〜〜〜〜〜♡♡♡センパイっ、やっぱりかっこいいなぁ〜〜♡♡♡


 遡ること5分前。

 噴水広い場を通り過ぎようとした時、先輩がお家の方からの電話で一旦、私たちから離れた。その間、私と遙先輩は2人っきりで待っていた。その時にしつこいナンパに遭って……


「だからっ、私たちは待っている人がいるので、貴方たちとは遊びにいきませんっ!」


「この女防御硬……っ」

「そっちの子はいいだろ? 慣れてそうな見た目してるしw」

「確かに。いかにも私、ビッチで〜す、ってアピってるしな」


 私がずっと黙っていたことをいい事に、男たちはゲラゲラと好き勝手言い、笑う。


 見た目が原因で私は侮辱されていた。

 ヤリなれてるとか言われるのはのおかげで皮肉にも耐性がついた。


「コイツが軽そう? ヤリなれてる? ふざけんなっ」


 そんな時に先輩が登場。

 私たちを庇うように前に出る。


「人を見た目で判断して、侮辱するお前らの方がよっぽど残念な人間だ」


「あっ? なんだとッ」


  先輩は中学まで空手と剣道を習っていたらしいので、殴りかかってきた男たちをあっさり倒した。


 凄く、カッコよかった……発言も行動も……全てが好き。


「さっきはありがとうございました先輩♪ 先輩はやっぱりカッコいいです」


「そんな大袈裟な……っ」


 先輩は頬をかく。


 照れてる姿も可愛い。

 その姿を私に……私だけに見せて欲しい。こんな女なんかより、もっと愛している私の恋人に……。


 早く、早く——寝取らないと。


 それにしてもあの男の姿が見当たらない。


 御手洗翔太郎……私の邪魔をする忌々しい人物。


 校門を出てから後ろをつけていなと言うのに……諦めたとか? いや、そんなに簡単にあきらめるように人じゃないだろう。


『——クソビッチ』


 耳障りな言葉。ムカつく言葉。言われて腹が立ち思わず冷静さを一瞬失った。


 勝負? そんなの、あのモブが出る幕もなく、圧勝よ。


「あっ、ここです、ここ〜」


 お目当てのカフェに着いた。

 黒色で統一されているオシャレな店。新しくオープンしたと言うことで、店内は学生で超満席。


「これじゃ入れるのはもうちょっと先だな」


「だね。どこかで暇つぶしでも……」


「いえ、問題ありませんよ」


「「え?」」


 仲良く声が被る2人を尻目に、スマホを取り出す。実は事前に予約していたのだ。    


「予約したので、ちょっと待てばすぐに番号が呼ばれますよ」


「そっか……」


「予約って便利だねー」


「はい、じゃあ番号が呼ばれるまで中で待ちましょうか」

 

 ここでは私はクスリと笑う。


 さぁ、御手洗翔太郎、アンタが邪魔する隙はないわよ。なんたってこのカフェは超満員。男1人だとしても入れるようになるのはせいぜい20分くらいかかるだろう。それほどの時間があれば私の作戦はなんなく遂行できる。


 ふふ、ふふふ……アンタの負けよっ!


 扉を開けるとカラランっと音が鳴る。


「いらっしゃいませ、予約された瀬尾様ですね」


「はい、そうです……え」


「お間違えなかったですよね?」


 なんで私の名前を……と、慌てて店員の顔を見る。目の前にはカフェの制服を身に纏った御手洗翔太郎が立っていて……


「え……」


 えええええええええ!?!?!?



〜30分前〜


「お願いします!! 俺を今日から……いや、今からここで働かせてくださぁぁぁぁい!!」


 俺は土下座をしていた。

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