#1 裏切り

「死にたい。」

1ページ目には、それしか記されていなかった。


次いで、「なぜ私は生きてるのか。」

どうやら、悩みを抱えた女の子らしい。文字の体裁など考えもせずに書かれたのだろう。ほとんど原形を留めていない文字が並んでいる。


3ページ目は、鉛筆で痛々しく塗りつぶされている。私は、そのページを見て妙な懐かしさを覚えたのと同時に、胸が高鳴るのを感じた。


次ページ。

どうやら落ち着いたらしい。

彼女の悲惨な経験が綴られている。


私は、16歳の高校生です。

部活は、ソフトテニス部に入っています。

好きな教科は国語で、苦手なのは数学。

彼氏はいません。いた事もありません。


私には大切な親友が1人います。同じクラスの由佳です。由佳とは、小学校の頃からの親友で、部活も同じです。嬉しかった時も、悲しかった時も、いつも由佳と一緒に過ごしてきました。


昨日までは。


由佳は、私を裏切りました。ずっと、親友だと思ってたのに。そう思うと、怒りと悲しさでいっぱいです。なんで。どうして。私が何かしたの?そう聞いても、由佳は何も答えてくれませんでした。



この日記を書いた子が流したであろう涙の跡がノートに残るのを見て、私は眉をひそめた。偶然にも、私も似たような経験がある。つまり、昨日まで信じていた人に今日裏切られる、という経験だ。忘れようとしていた記憶が脳内を縦横無尽に巡り出し、気が付くと先程までの高揚感は消え失せ、ノートのシワを増やしてしまっていた。


この日、彼女の言葉はここで終わっていた。

私にもこの子と同じ涙があった。この子程では無いのかもしれないが、誰もが経験するものでもない。そんな事を考えながら読み進めていく。



今日も学校を休みました。学校から何度も電話がかかってきます。その度にお母さんが謝ってます。お母さんは、学校のみんなが心配してるって言うけど、そんなのは嘘です。


私には居場所なんてない。


私には生きる意味なんてないのに、どうして生まれできたんだろう。

私は、なんで生きてるんだろう。

そんな事ばかり考えているけど、答えなんてありません。



今日は知らない人が家に来た。私と話がしたいって。話すことなんて何も無いのに。それなのに、1時間くらい私の部屋の前で私に話しかけてた。正直、ウザかった。今更、なに?話せば楽になる?そうやって私を信頼させて、結局みんな裏切るんだから。いい加減にしてよ……。



今日の朝、由佳から連絡が来た。

「2週間前のことごめんね」って。

なんなの。いまさら。いまさら謝ってこないでよ……。

どうせ、先生に謝れって言われたんでしょ。本心じゃないんでしょ。

あんたのせいで私の人生は台無しだよ。どうしてくれるの。



彼女のノートは、涙に濡れているページや、破り取られているページがいくつもある。彼女が内に秘める、吐き出すことの出来ない言葉達が、かろうじて文字の形を成している。読み進めるにつれ文字が薄くなっていくのは、彼女がこの世界から消え行く様を物語っているかのようだった。


この後、彼女の家には、先生と由佳が謝罪に来たらしいが、彼女が閉ざしてしまった扉を開けることは無かった。そして彼女は半年間休学し、学校を辞め、通信制の高校に転校していた。

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