3

「…楠さん。ちょっといいかな」


 個人授業の後、あのラジカセや学生カバンを手に校門を出たところで、不意に史都は、ひとりの男子生徒から声をかけられました。


 はたと足を止めて見れば、そのスラリと中背かつ端整な顔立ちの彼は、史都と同じクラスの有田土岐雄ありたときおくんです。


「どうしたんですか、有田くん〜」


 校庭で、運動部の生徒たちが活動する姿を脇目に、史都が尋ねました。


「う、うん。ちょっと話があるんだけど…さ」


 なにやら躊躇いがち。その話とは、いったい何事でしょうか。


「分かりました〜」


 史都が頷くや、ちょいと校門から離れ、2人して近くの歩道の脇へ。あらためて彼女と向き合うと共に、再び有田くんが口を開きました。


 が、


「…でさ、あのさ…」


 それ以降、なかなか先へ進みません。というか、進めぬ様子の有田くんです。


「なんでしょうか〜」


 例の無表情さでもって、史都が有田くんの次なる言葉を待ちます。


「あのさ…楠さん。んいや、史都ちゃん…」


 お、どうした訳か有田くんったら、急に下の名前で彼女を呼びました。


 んっ、これはもしかして、もしかすると…


「…し、史都ちゃん、好きだ! 僕と付き合ってくれないかっ」


 ずがががが〜んっ…! (東京ドーム約100個分の衝撃)


 やっぱり…そう、史都ときたら、突如として愛の告白をされちゃったんです。


「い、いや、もちろん今すぐに返事を、とは言わない。あとで…あとで返事をくださいっ。そ、それじゃっ」


 せめて、いまこの場でフラれることは避けたかったのか。とにかく一方的にまくし立てた後、有田くんは、あれよと史都の前から去っていきました。


 それに比べて史都はといえば、そこから1歩も動きませんが…


 あ、よくよく見れば、彼女。気ぃ失っちゃってます。衝撃のあまりに。


 無理もないでしょうか。まさか人形の自分が、こうして愛の告白を受ける日が来ようとは、夢にも思わなかったからです。


 いや〜、それにしても世の中には、奇特な方(=有田くん)がいたものです。

 

 もちろん、彼とて他のクラスメート同様。心はともかく、史都の身が人形であることは、すでに承知済みですし…


 果たして、史都の返答やいかに。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る