8:ヤサスィー街の冒険者ギルド

 長い時間歩き続けてようやく街の目の前に到着した私達は、アルスさんとエリナさんに連れられて門の前へとやって来ていた。


「よう、アルスとエリナじゃねぇか、予定より早かったな」

「えぇ、ちょっと問題があってね⋯⋯」

「問題? 珍しいじゃねぇか」

「と言う事でギルドへ寄って行きたいんだけど、この子達身分証明出来る物がないから私達が身元を引き受けるわ」

「ほう、この子供達をねぇ⋯⋯珍しい事もあったもんだな。しかも、あのエリナ達がなぁ⋯⋯」

「とりあえず感慨に耽るのも良いけど、通して貰ってもいいかしら?」

「あぁ、大丈夫だ。

 お嬢ちゃん達、ようこそヤサスィーの街へ!」

「ありがとうございます!」

「ありがと!」

 そして街中に無事に入る事の出来た私達はまず、冒険者ギルドへと足を運ぶ事になった。


 街の中を見て回りたい気持ちもあるけれど、それはまた今度。



「さぁ、あれがギルドよ」


 街の中を少し歩くとエリナさんが大きな建物を指差してそう言った。私達の住んでいた街のギルドよりも大きな冒険者ギルドで私は少し驚いてしまった。


「お、大きくないですか?」

「そうかしら? 冒険者ギルドは大体あれくらいの大きさだけれど⋯⋯あぁ、でも王都のギルド本部はもっと大きいのよ?」

「これよりも、ですか⋯⋯」

 エリナさんはこれが普通だと言うけれど、これよりも大きい王都のギルドの大きさなんて、私には想像も出来なかった。


「それじゃ、リナちゃんやリサちゃんも疲れただろうし、用事をさっさと済ませてしまいましょうか」

「は、はい!」

 私はエリナさんに連れられたまま、ギルドの中へと入って行った。


 ギルドの中へ入ると、中には冒険者の姿は無く、受付にいる女の人が書類の整理などをしていた。


「あっ、エリナさんにアルスさんじゃないですか! 遠征お疲れ様でした!」

 そして、受付にいたお姉さんがエリナさんとアルスさんに気付くと声をかけてきた。


「ありがとう、ミスティ」

「それにしても、予定よりも早いようですけど、何かありましたか?」

「そうなのよ、その説明もしたいからギルマスに会えないかしら?」

「えっと⋯⋯今なら大丈夫そうですね、ちょっと声かけて来るので待ってて貰っても大丈夫ですか?」

「もちろんよ」

「それでは行って来るのでお待ちください!」

 そうエリナさんに告げるとミスティさんは中へ走って行った。


 そしてすぐに戻って来ると⋯⋯


「大丈夫との事なので、会議室にどうぞ!」

「ありがとう、それじゃ行きましょうか」

 エリナさんの後を着いて行き、広めの部屋に入り、少し待つと部屋に誰かが入ってきた。


「よう、エリナにアルス、俺に一体何の用だ?」

 部屋に入るなり強面のおじさんがそう問いかけて来た。


 ちょっと顔が怖いせいか、リナが怖がって私の服をギュッと握っている。

 ⋯⋯凄く強く握ってるけど、私の服伸びないよね? 服はこれ一枚だからそんなに掴まないで!


「ギルマス、ちょっと内容が内容だから、俺達だけで話がしたい」

「ん、ちょっと待て」

 アルスさんがそう言うと、ギルマスと呼ばれた強面のおじさんは部屋の中央にあるテーブルに置かれている変な物に小さな魔石を入れた。


「これで良いか?」

「あぁ、助かる」

「それで? これを使わせたって事は相当な案件だと見ているが、この子供達も関係者か?」

「⋯⋯おそらく、そうだと思っている」

「ほう、聞かせてくれ」

 そしてアルスさんとエリナさんは街であった事を話し始めた。


「まずは、私達が応援依頼を受けて行ったワリィーノの街に入ろうとしたら銀貨を1枚要求されたわ」

「何だと!? 基本的に冒険者から通行税を取るのは禁止されているはずだが⋯⋯」

「それで、俺達が受けた依頼を覚えているか?」

「⋯⋯確か誘拐された子供達を探して欲しいって内容だったな」

 エリナさん達がそんな依頼を受けていたなんて初めて知った。


「あぁ、それでこの子達は街の外で見かけた」

「何だと?」

「しかも、両親を街の中で殺されたそうだ」

「まさか⋯⋯」

「可能性はあるし、この子によると孤児院すらなかったそうよ」

「はぁ⋯⋯情報助かる。

 とりあえずうちの領主様に話を通しておく」

「⋯⋯そうしてくれると助かる」

 そしてなんだか大事そうな話が終わったと思ったらアルスさんが続けて言い始めた。


「それで次の話だが、この子を冒険者にしたい」

「⋯⋯嬢ちゃんは良いのか?」

「はい!」

 ここに来る間にアルスさんから聞いたんだ。

 冒険者は大変だけど、ちゃんと依頼をこなす事が出来ればお金には困らないって。


 それに、配信のコメントでも冒険者がどんな事をするのか気になるって言っていたから、少しでも恩返しになればいいなって。


「レベルは上がらなかったみたいだが、基礎はここに来る間にある程度教えたから、あとは数をこなせば良いと思う」

「⋯⋯そうか、困った事があれば他の冒険者を頼れ。 冒険者は一人じゃない、一人では無理でも二人ならどうにかなるだろう。

 それでも無理ならもっと頼れ」

 ギルマスさんはそう私に言うと、頭を撫でて来た。 強面で怖い顔をしているけれど、その目はとても優し気で、どこか安心する。


「はい! その時はお願いします!」

「⋯⋯それじゃ、ギルドカードを作るべきだな。 ギルドカードを作る際は本来銀貨一枚必要だと言う所だが⋯⋯」

「私達が拾って来たのよ? 責任は取るわ」

 そう言って、エリナさんが銀貨を一枚、ギルマスに渡した。


「へっ、んじゃこれは俺から渡すか」

「えっ?」

 そうしてギルマスはエリナさんから受け取った銀貨を一枚上乗せして私に渡して来た。


「こ、これは⋯⋯?」

「泊まる場所も、食べる物を買う金も何も無いんだろう? 泊まる場所は孤児院を暫くの間貸してもらえ。 状況が状況だからきっと受け入れてくれる筈だ」

「その⋯⋯良いんですか?」

「そうだな⋯⋯んじゃ嬢ちゃんが稼げるようになった時、酒を一杯ご馳走してくれ。

 それに、今の嬢ちゃんみたいな境遇の奴が居たら、手を差し伸べてやってくれ。

 俺からはそれだけで十分だ」

「⋯⋯だったら俺からも渡そう」

「あ、アルスさんまで!?」

「たかが銀貨一枚だ、気にするなリナ」

「私は気にするんですよ!?」

「じゃああれだ、ギルマスと同じでその時はお酒でも頼む」

「⋯⋯分かりました。

 でも絶対お腹いっぱいになるまでお酒奢れるくらいになってみせますから!」

「ハッハッハ! 威勢のいいこった!

 だけどな、無茶だけはするなよ」

「⋯⋯はい」

 ギルマスさんの最後の一言には、重みがあった。 今まで沢山の冒険者を見送って来たギルマスさんだからこそ、心からそう言っているんだろうなって言うのは私にも伝わった。

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