大事件

 雑談を終え、廊下へ。

 和泉はまだ教室内のようだ。

 友達と話しているようだな。


 少しして、やっと出てきた。



「あっ、東雲くんに宮藤さん……! 待っていてくれたんですね」

「おう。今日は小島が休みらしいけど念の為だ」

「そうなんですね。今日も会社へ行かれるんです?」


「そうだ。新人も紹介したい」

「新人さん?」

理由わけあって会社で暮らすかもしれない。詳しくは校門前まで行けば分かると思う」


「そうなんですね。楽しみです」



 和泉を護衛しながら昇降口を出た。

 小島が休みとはいえ、どこか遠くからこちらを監視しているかもしれない。最悪なケースを想定して先へ進む。


 校門前には、菜枝がいるはず。

 待つよう指示してあった。



 これで何事もなく会社へ行けると思った――その時だった。




「死ねええええええええええッ!!!」




 発狂をして声を荒げる小島が校門の陰から現れ、包丁を握った状態で向かってきた。そ、そんな所に隠れてやがったのか。しかも、和泉を狙っている。



 ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ……!


 小島のヤツ、目が血走って狂気に満ちている。


 このままでは和泉が刺されてしまう!!



 俺が助けないと……!

 こんなところでビビっている場合では……だけど、足が震えて動かねえ。凶器を振り回しているヤツなんて相手にした事もないし、現実それを前にすると頭が真っ白になった。いわゆるパニック状態だ。



 だめだ、冷静になれ俺。

 経営者は常に冷静な判断が下せないと……。だが、どうする。どうすればいい。何か方法は? 策は? 今俺にあるモノは……そうだ。



「小島ぁあああああ、お前の思い通りにさせるかああああああああ……!!」

「東雲、俺の邪魔をするなあああッッ!!!」



 包丁が俺に向かって来る。

 これでいい、俺が全部受け止めてやる!!!


 部下を守るのが社長の責任だ。



 ――ああ、けれど死んだな……俺。でもいい、短い間だったけれど、璃香と幸せな時間を過ごせた。あのギャルの璃香と。


 もっと話したかったし、会社も続けたかった。けど、俺の命はここまでのようだ。これが“運命”ってヤツかね。




 俺は、和泉を抱きしめ――かばった。




 包丁は数センチまで迫っていた。

 ……痛いだろうな、辛いんだろうな。


 どうせなら楽に死にたかった――。




『――――ガンッッ』




 金属の鈍い音がした。

 包丁が宙を舞い、遠くへ落ちた。



「…………え」



 更に驚くべき事に、璃香がハイキックを小島にお見舞いしていた。強烈で、鮮烈なキックだった。




「――――ぐふぁぁぁぁあああああああああああああああああ…………!!!!!」




 今度は、小島の体が吹き飛び高速回転して、まるでゴミのように何度も地面へ打ちつけられ吹っ飛んでいった。



「……マ、マジかよ。なんだあのキックボクサー顔負けの蹴り技。璃香、お前……」

「ふぅ。間に合って良かったわ。あと少しで賢が刺されていたわね」



 璃香は冷静にスカートを直していた。

 会社の事といい、本当に何者だよ!


 いや、今は追及している場合ではない。



「璃香、直ぐに警察に――」

「もう今してる。これは立派な殺人未遂事件よ。ついでに近くで隠れていた菜枝ちゃんにも協力してもらって先生を呼んでもらってる」



 行動早いなぁ~。さすが俺の秘書。

 俺はビビって何も出来なかったけどな。



「和泉さん、大丈夫か」

「は……はい。守っていただけたので。で、でも……あの、宮藤さんって格闘家なんですか?」


「俺にも分からん。でも、璃香がいなかったら俺は死んでいた。助かった」

「……東雲くんも立派でしたよ。わたしを守ってくれたじゃないですか」


「でも」

「事実は事実です。勇敢でしたよ」



 そう褒められて悪い気はしなかった。


 直後、異常を察知した先生達が四人走って来て白目を剥いてぶっ倒れている小島を確保した。俺たちは大垣に事情を説明した。


「――そうか、小島が。道理で今日は姿を見ないと思った。和泉のストーカーを……危なかったな。危うく全国ニュースになってしまうところだった。だが、こうなると事情徴収があるだろうな。お前達、残れ」


「分かりました、先生」



 俺、和泉と璃香は待機になった。

 遠くでこちらを見守っている菜枝には悪いけど、もう少し待ってもらおう。

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