胸騒ぎ

 約束を交わし、俺は自室へ。

 ふかふかのベッドに寝転んだ。

 睡眠不足は敵だからな、さっさと寝よっと。




 ――次の日の朝。




 アラームではなく、俺は叩き起こされた。親父に。



「起きろ、賢。お前にお客さんだぞ」

「……んだよ、親父。俺はまだ眠いんだぞ」

「早く着替えろ。学校もあるだろう」

「分かったよ。起きればいいんだろ」



 のそのそと起き上がり、俺は学生服に着替えた。学校なんて好きでもないし、正直行きたくもない。でも、今は璃香がいる。彼女の為なら俺は……って、まさか。


 今来ているお客さんって。



 急いで着替え、階段を降りていく。

 玄関を出ると、そこには――。



「おっはよ~、賢」



 風に舞い上がる金髪。

 サラサラとした躍動感が目に焼き付くようだった。この恐ろしくキャピキャピしているギャルは、この辺りでは璃香くらいだろう。



「まさか迎えに来るとはな。てか、家教えたっけ?」

「あー…。あはは……」



 笑って誤魔化された。

 まあいいか、別に璃香なら困りもしないし、どのみち中間地点で合流すると決めていたからな。



「じゃあ、一緒に学校へ行くか」

「うん。話もあるし」

「話?」

「和泉さんのこと。ほら、ストーカーの小島を何とかしないといけないじゃん」


 ――そうだった。

 あの腐れ外道の小島を何とか撃退しないと、和泉が俺の会社に入ってくれない。どう対処すべきか考えないとな。


 しかしどうする……。


 それを歩きながら考える。

 璃香も同じように頭を回転させるが、何も浮かばない様子。これは困ったぞ。



「やっぱり、担任の大垣に頼むか」

「それが無難かもね。あのプロレスラーみたいな大垣なら、ワンパンじゃない?」

「今時は体罰が五月蠅うるさいからなぁ……無理かもな」


「だよね~…」


 落胆する璃香。

 そう、今は少し小突くだけでも大問題に発展する敏感すぎる時代。あの強面こわもての大垣ですら、生徒には手を出せないはずだ。結婚もしているようだし。



「でも、諦めるつもりもないよ。なんとか和泉さんを救うぞ」

「そうだね、今はいろんな方法を模索しよう」



 いろいろ話し合っていると、学校の前。もう到着か。璃香と過ごしていると時間があっと言う間に過ぎるな。そのまま教室へ向かい、扉を開けると教室内がざわついた。


 ……あー…。


 俺と璃香が一緒に登校してきたから、みんなビビってる。そうだよな、つい数日前までぼっちだった俺がいつの間にか璃香と仲良くしているのだから、驚天きょうてん動地どうち


 クラスメイト全員が目を皿にしていた。



 正直、今はその視線が小気味よい。

 謎の優越感に浸り、俺は隅の席へ。



「璃香、小島はいないようだな」

「遅刻かもね」



 ホームルームになっても小島は現れなかった。休みか……? まあ、最近は璃香にも付きまとってやらかしているし、居辛くなったのかも。


 担任の大垣が現れ、ホームルームが始まった。どうやら、小島は“遅刻”のようだ。なんだ、遅刻か。なら、そのうち現れるだろう。



 だが、昼休みになっても小島は登校してこなかった。



「……嫌な予感がするな」

「怖い顔をしてどうしたの、賢」

「……胸騒ぎがするんだ」

「考えすぎじゃない? それより、二人きりで屋上へ行こう」

「そ、そうだな。お弁当、あるのか?」

「うん、手作りの愛妻弁当」



 マジか。本当に作ってくれたんだ。

 その手には二つのお弁当箱。

 俺の分だ。



 おかげですっかり、緊張感が吹き飛んだ。今は小島なんて矮小わいしょうな存在は忘れて、昼飯にしよう。そんなわけで屋上を目指した。



「――璃香。アークなんだが、近々、親戚の子が……」

「親戚の子?」



 途中まで話して屋上に辿り着くと、そこには……意外な人物が立っていた。コ、コイツは、なんでここいる!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る