ギャルの意外な趣味

 罠かもしれないのに、俺はノコノコと宮藤について行った。実は彼氏がいて、なにオレの女に手ぇ出してんだぁ! 的な男が現れるかもしれないというのにな。ようは美人局つつもたせなのだが――そんなのあり得ないか。


 目的地はハッキリしている。本屋さんだ。しかし、なぜ本屋?


 学校を出て徒歩十五分ほどの距離にある古澤書店へ向かった。



「教えてくれ、宮藤。買うのは漫画か? ラノベか? それともエロ本か」

「賢、今どきエロ本はないでしょ。スマホで事足りるじゃん」

「冗談だよ。で、ジャンルを教えてくれ」

「ナイショ。着いてから教えるよ」



 秘密かぁ。それはそれで楽しみがあっていいかもな。ギャルである宮藤なら、無難に漫画か女性向けの雑誌か何かだろう。


 葵町を歩いて、ようやく本屋の前。全国展開するチェーン店なので、大きくて落ち着きのある雰囲気だ。書籍の種類もかなりの数だ。俺もたまに寄ってお世話になっている。ついでだから漫画でも買うか。



 一緒になって店内をウロウロ。どこへ行こうというのかね!? まてまて、そっちは漫画コーナーとはかけ離れた通路だぞ。参考書とか資格の本がびっしりある。えっ、宮藤の欲しい本って……まさか。



「せめて小説かと思ったんだが」

「はずれ~。これこれ、これだよー」



 手に取って俺に見せびらかしてくる宮藤。その手には『株・FX・仮想通貨』の羅列があった。――はあああああ!?



 ギャルが!? 宮藤が!? 株? FX? 仮想通貨あああああああ!? ありえねー! 嘘だろ。信じられん。ていうか、高校生やるものなのか……?



 とはいえ、俺も興味はあった。会社設立を夢見ている俺にとっては、必要な知識。まさか、宮藤がそれを手にするとは……これは運命か。それともまだ俺を揶揄からかっているのか。揶揄からかい上手なのか!?



「宮藤……」

「ん? 驚いた?」

「あー…、うん。ビックリした。宮藤って株とかやってるの?」

「お父さんが投資家でね、その影響」



 マジかよ。親の影響かよ。しかもそれでギャルって……世の中分からんものだ。けれど、今どきは少額投資も出来る時代。積立NISAでコツコツと――なんて時代でもある。


 そうか、宮藤は投資を……面白い。実に面白い。こんなギャルは珍妙で稀有な存在だろう。だからこそ、俺は宮藤を秘書にしたいと心の底から思った。



「……宮藤!」

「ど、どうしたの賢」

「話があるんだ……その本を買ったら、近くの公園で話そう」

「う、うん……って、もう告るの? あたし、心の準備が……」



 顔を真っ赤にする宮藤だが、告る!? まあ、ある意味間違っていないかもな。俺だって心臓破裂寸前だ。AEDの用意をしておかないと……ガチで死ぬかもしれん。だが、失う物がないぼっちだからこそ、玉砕覚悟だ。


 宮藤には秘書になってもらう!!

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