第6話 貴族からの依頼 03

「ついに決行の日だね。…なんかツェート疲れた顔してるけど大丈夫?」


今日から屋敷の浄化作業だ。

貴族絡みだからシザーは少し緊張しているように見える。


「ああ、マスターに連日絡まれてな…。」


思い出すとまた疲れる。

オレの返事に「いつものやつか。」と軽く言って話を流す。

シザーの奴め、自分から質問して来たのにアッサリし過ぎじゃなかろうか。

いつか仕返ししてやろうと考え、先を急ぐ。



「あれが…対象の建物か。」


元は貴族の屋敷というだけあって建物は立派だが、外壁は一部が崩れ庭は荒れ果てている。

本邸は無事なものの、壁から窓まで緑で覆われ、一面に瘴気が漂っている。


「中々酷いものだな。」


言いながらメンバーに魔法をかけていく。

攻撃と防御の補助魔法だ。光属性だから死霊相手にはよく効くだろう。


「あれは瘴気に当てられたトレント系みたいだ…。大掛かりな火魔法は難しそうだなぁ…。」


礼を述べた後、シザーが現状を分析する。

シザーは4属性全ての魔法が使えるが、特に火属性を得意としている。


「他の魔法でも十分強いだろう?頼りにしてるぞ。」


前を見ながらシザーに声をかける。

オレの言葉に気を良くし、「いつでも僕を頼るんだぞ!」とか喋っている。

すぐ調子に乗るところがコイツの悪い癖だ。



敷地に入るとすぐにゴーストが集まって来た。

自分達のテリトリーを理解しているのだろう、中に入ってきたオレ達を逃さないと取り囲む。


「っふ!」

「来世は良い男になりなさい!」


ゲインは元騎士らしく、余計な事は言わずに大きく息を吐くと同時に斬りかかる。

ワドはよく分からないことを言いながら細剣を振るう。

生まれ変わるなら女性の方が有難いだろうに、変わった男だ。


ゴースト達を一掃すると次の群れが来ない内に屋敷へと突入する。

屋敷の中はカーテンも閉められており薄暗い状態だった。

魔法のランプで辺りを照らし、近寄ってくるゾンビを叩き斬る。


「今のゾンビ、元はキメラのようだったな。」


キメラは複数のモンスターを掛け合わせた存在だ。

古くから研究されており、研究内容としてはメジャーと言えるだろう。


「眠れ!」


ゲインが叫び声と共に斬撃を飛ばす。

10体以上居たゾンビは次々と倒され、すぐに周囲から居なくなった。

倒した後も苦々しい表情をしたままだ。色々と思う所が有るのだろう。


「広い屋敷だな。調査するには別れた方が良いか?」


オレが声をかけるとゲイン達も賛成した。


オレとゲイン、他3人で手分けして屋敷を探索する。


「アタシ達は地下の方に行くわ。」


ワド達3人は地下に行くみたいだ。

地下はトラップも有りそうだしちょうど良い。

ゴースト程度なら光魔法が無くても余裕だろう。


「なら私達は上だな。ツェート、宜しく頼むぞ。」


「ああ、上にはボスが居そうだし楽しめそうだ。」


オレの返答に満足したようにゲインが笑う。

本当にボスが居るか分からないが、貴族の偉い奴なら上でふんぞり返っている事だろう。


ゲインが盾を構えて部屋の扉を無造作に開けていく。

普段は余り使わないが見事な装飾が施されていて、恐らくは聖属性が付与されている。

聖属性は光属性とも親和性が高く、オレは使えないが教会の人間がよく使っている。

あの盾があれば罠があろうと防げるだろう。


順々に扉を開けて中の敵を殲滅して行く。

途中で机や棚が有れば中を確認する。

オレは中に物が入っているか見ているだけだが、時間短縮にはなってるだろう。


「上の階は瘴気が強いな。やはりここに居そうだ。」


3階に上がると目に見える位の瘴気が充満している。

ゲインも先に進むに連れ顔が険しくなってきており、今では羅刹のような顔だ。


「そんな怖い顔をしてても何も変わらんぞ。」


声をかけるとハッとした表情でこちらを見てくる。


「あ、ああ。すまない。知らずに瘴気に当てられていたようだ。」


負の感情に支配されていれば例え聖なる盾を持っていようと瘴気の影響を受けてしまうだろう。


「ま、因縁が有れば仕方無いか。取り敢えずボスは譲るぞ。」


3階の最奥、最も瘴気の強い部屋の前でゲインに告げる。

補助魔法を掛け直し、後は様子見だ。


「ああ…!」


覚悟を決めた顔でゲインが扉を開けると、執務室のようで重厚な机の向こう側に1人の男が座っていた。


「騒がしい客が来たと思っていれば、ゲイン、お主だったとはな。」


一見すると人間のようだが青白い肌に昏い瞳、コイツは…。


ゲインを見ると分かっているようなので様子を見る事にした。


「お久しぶりです。閣下。あの頃から変わらないままですな。」


「見苦しくも生き足掻いておるよ。いや、生きてはいないがな。」


笑いながら閣下とやらが話す。

どうやら意識があり、自分が死んだ事も理解しているようだ。

これは相当高位の死霊になってると思われる。


「アイツを倒すまではどんなに醜くなろうとも消える訳にはいかんのだ。ゲインよ、お前を手にかけたく無い。どうか引いてくれんか?」


「閣下…。」


死霊の問いにゲインは辛そうに目を逸らす。

拳を固く握り、手から血が流れている。


「そんな顔をするな。お主の答えも分かっておるよ…。」


相手も悲しそうな表情をしている。


(とんでも無いな。理性が有るどころか本気で慈悲をかけてくるとは。)


通常死霊系のモンスターは生者を憎む傾向にある。

それを抑え込んでるとなるとS級相当の強さは有るだろう。


「だがな…。憎きアイツを倒すまで死ぬ訳にはいかんのだ…!我が妻を!我が子を!!奪ったアイツだけは!!!」


憎しみを思い出したのか、どんどん瘴気が濃くなってくる。

屋敷全体が軋み、閣下は真っ黒いモヤに包まれていく。


「ゲイン!ここは狭すぎる!広間まで下がるぞ!」


苦しそうに死霊を見ていたゲインに声をかけ、急いで離れる。

部屋から離れると奥の瘴気が一気に消え、敵も準備が整ったのだと理解する。

庭や地下からも爆発音が響く。どうやらあちこちに敵が潜んでいるようだ。


「ゲイン、手伝うか?」


念の為聞いておく。

奥から感じる重圧からすると、敵はゲインより強い。

2人でかかってようやく、といった所だろう。


オレの言葉に首を横に振る。

やはり1人でやるつもりのようだ。


「分かった。ギリギリまでは見ていよう。」


言いながら腕を組む。

他にも敵が沸いてるが3人が何とかしてくれるだろう。

仲間達を信じて戦いの決着を見守る事に決めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る