第4話 貴族からの依頼 01

「バジリスクの変異種とは!無事討伐出来たようで何よりだ!!」


「私も手伝ったぞ!!!」


「ワシも今なら参戦してやるわい!!!!」


ギルドマスターに今回の事を報告すると、上着を脱いで歓迎された。

「筋肉も喜んでおるわ!」と意味不明な事を叫んでいると、素材を売りに来た村長と行きは我慢していたドーズも脱ぎ出した。


その光景を見ていると楽しそうだと思考が汚染されてくる。


(あの輪に入ったら終わるぞ…!)


何とか平静を保ち、心を落ち着かせる。

何故か袖がまくられていたから忘れずに戻しておく。


そんなオレを見てシザーがホッとしている。

変態が増えなくて安心しているのだろう。オレも変態にならなくて安心している。


「報告書も後で出しておく。数日は休むから宜しく頼むよ。」


ゲインが冷静に報告する。

流石はチームリーダー、いつでも頼れる男だ。


「ああ、ゲイン。『鉄と酒』に指名依頼が入っているぞ。王国の子爵経由らしいが、話だけでも聞いておいてくれ。」


マスターの言葉に一瞬ゲインが固まった。

貴族の依頼は面倒な事が多いし、ゲインも嫌なんだろう。


「受けるかどうかは任せるが、少し胡散臭い感じだったな。」


真剣な顔をしながらポーズを変える。

全て台無しな気がするが、ゲインは「分かった。」と答えるだけで部屋を出て行った。


「どうしたのかな?」


シザーが何とは無しに呟く。

ワドは真剣な顔で何かを考えているようだ。


「決まっているだろう。この空間から早く去りたかったんだよ。」


周りを見てみると3人が少し汗ばんでテカテカの肌を見せつけ合っている。

今度の汚染はヤバそうだと思い、オレも急いで部屋を出るのだった。


外に出ると街は活気に満ちており、旨そうな匂いがそこら中からしてくる。

祝勝会から数日経ってるし、久しぶりに早くから飲むかと思い、近くの酒場に入る。


「ッカー!ウマイ!!」


やはり久しぶりの酒の後は叫ぶに限る。

こうするといつもより3倍はウマくなる気がする。


「ツェート、ここに居たのか。」


シザーが店に入ってくる。

外からオレの声を聞きつけたと言っていたが、耳の良い奴だ。


「シザーも飲むと良い。」


シザーは酒が余り強く無く、チームの誰かと一緒じゃない時は飲まない。

以前財布をスられた事があるらしく、それ以来は気をつけてるらしい。


「ああ、そうさせて貰うよ。ワドは調べ物が有るとか言ってどこかへ行っちゃってね。」


「いつも通りだな。」


いつも街では情報収集をしてくれている。

裏の情報にも精通していて、この街で分からない事は殆ど無いだろう。

オレの言葉に納得してないのか、微妙な顔をしている。


「必要なら言ってくるさ。良い男ってのは待つのも重要だぞ。」


コップを上げながら言うとシザーがコップを当ててくる。

何を気にしてるか知らないが、酒を飲む時は酒に集中すべきだろう。


「その通り!良い男っていうのは何をしても格好がつくものさ!」


グラスを掲げながら1人の男が近づいて来る。

両脇に女を侍らせ、顔を赤くしてご機嫌な様子だ。


「タラシーか、相変わらず女に囲まれているようだな。」


優男風で見るからに女にモテそうな顔をしており、実際にモテる。

チーム『奴隷ハーレム』のリーダーだ。


「タシラーだ!それに私のチームは『うるわしのつるぎ』だ!全然違うじゃ無いか!!」


いつの間にかチーム名を呟いていたようだ。オレの言葉を一々訂正してくる。

コイツのチームは元奴隷達で構成されており、全員タラシーが引き取った者達だ。

誰も欠かさずに堅実なチーム運営をしているコイツは冒険者達から一目置かれており、オレも何度か相談したことがある程だ。


「久しぶり、元気そうで良かったよ。」


シザーも挨拶する。

シザーとも仲が良く、恋愛相談してるのをたまに見かける。


「ああ、シザーもな。バジリスクを討伐したみたいじゃ無いか!流石は我がライバル!」


そう言って右の子の髪飾りを口に咥える。

キザっぽく演出してるのだろうが、その子困ってるじゃないか。


タラシーもオレと同じ魔法剣士で、得意魔法は風だ。

勇者に憧れているらしく、光魔法を使うオレを生涯のライバルと勝手に認定している。


「何がライバルだ。いつもマスターから逃げる癖に。」


以前上手く唆してマスターとの訓練に連れて行ったら途中で脱走しやがった。

お陰であの時は2倍しごかれてしまった。


「君が騙すからだろう!何が幸薄そうな狐っ子が呼んでるだ!髪の無いゴリラじゃ無いか!」


もしかしたらそんな事を言ったかもしれない。

確かに女性が待っていると言われてアレが出てきたらブチ切れ案件だろう。

試しに考えてみるだけで軽くキレてしまう。流石に気をつけよう。


「第一私は君達とはスタイルが違うんだ!あんな訓練をしても調子を崩すだけさ!」


そう言ってグラスをあおる。

タラシーは技術とスピードを重視している。我々のように筋トレをし過ぎるとバランスが崩れるか。


「それよりも!」


オレ達の注目を集めた後、顔を寄せて小さな声で続ける。


「貴族から依頼が来ているそうだが、気をつけ給え。かなりヤバイ所が絡んでるぞ。ゲインとワドが居るなら大丈夫だろうが、君達も十分注意するんだぞ。」


真剣な調子で忠告してくる。

非合法な研究を行っている組織が絡んでいるらしく、高位貴族まで関わっているらしい。


「どうりで…、ワドの様子がおかしいと…。」


シザーは頷きながらも眠そうな顔をしている。

大事な話を聞くには少し遅かったようだ。


「貴重な情報をすまないな。まだ飲んでくのか?」


「ああ、久しぶりにツェート達と飲むのも悪くないな。」


そう言って同じテーブルに着く。

お供の子達は返すようだ。


「おいおい、折角の花が帰ってしまうぞ。」


「気を利かせてくれたのさ。君はともかくシザーには目の毒だったようだ。」


そこまで扇状的という程では無いが、少し肌が露出していたと思い出す。

シザーはウブなので気を紛らわす為に酒を飲んだようだ。


「たまには男同士というのも悪くないだろう?」


グラスを傾けながら話す姿はさまになっていたが、何を言ったかまでは分かってないようだ。


「宜しい。その台詞はオレに対する挑戦だな。」


エールを樽で頼む。


「ここは酒の席、酒で決着をつけようじゃないか!」


オレの言葉に他の客達が騒ぎ立てる。

タラシーは青い顔をしながら訂正してくる。


「違う!そういう意味じゃない!嫌味とかじゃ無くてつい言ってしまったんだ!」


常に男同士で飲んでる人間に言ってはならない台詞だとようやく気付いたみたいだ。


「尚更許せんわ!」


シザーを起こして無理矢理参戦させる。

モテない男の恨みを存分に教えてやろうではないか!

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