第2話 ギルドからの依頼 01

冒険者ギルドの一室、5人の男を前に上半身裸のマスターが話している。


「……と言う訳で、最近森の様子がおかしいんじゃ。『鉄と酒』には森の調査をお願いしたい。」


話しながら時折ポーズを決める。

ぶん殴ってやりたいが、残念ながら訓練タイマンが始まってしまうだけだろう。


「了解した。ワド、問題は無いな?」


少し苦笑しながらリーダーのゲインが話す。


「大丈夫よ。休みの間に準備も済ませて有るわ。」


調整役のワドはチームの補給や依頼に必要なアイテムを揃えてくれる。

ソロでやってた頃にその面倒さは嫌と言う程知っている。本当に有難い存在だ。

何故かうっとりとマスターの筋肉を見てるが、そこに触れてはいけないだろう。


「何で誰もマスターに突っ込まないんだよ…。」


シザーが小声でボヤく。

ドーズはマスターがポーズを変える度に筋肉が反応し、入室した時より一回り体が大きくなってるように見える。


(カオス過ぎるだろ…)


早く終われと願っていると、祈りが通じたようで話し合いの終了が言い渡された。


「では、その内容で『鉄と酒』は依頼を受けよう。この数日ツェートが世話になったみたいだな。」


ゲインとマスターが握手を交わす。

ゲインの言う通り、マスターとの訓練は1日で終わらずに数日続いた。

断ろうとしたのだが、「マリアの相手はこの私より強い者で無くてはな…。」などと呟いていたので仕方なく付き合ってやったのだ。


(おかげで全然休めて無いぞ。)


口には出さないがマスターを睨む。

目が合うとニカッと笑いかけてくる。

真っ白な歯とテカテカと光る肌に気力を削がれ、すぐに力が抜けてしまった。


「今度の休みは流石に付き合えないぞ。」


せめて一言だけ言っておくと、マスターはこの世の終わりみたいな顔をして固まってしまった。

どれだけ期待してたんだと思いながら、先を進む皆を追いかける。


「ツェートはマスターと戦っていたのか?!あの戦鬼を相手に羨ましいのう!」


ドーズが大声で言ってくる。

ドーズとマスターは相性が良過ぎて一旦戦うと途中で止めるのが難しいらしい。

過去手合わせした時はゲインが止めるまで半日近く戦い続けたとの事だ。


「マスターは近接のスペシャリストだからな。学ぶべきところは多いだろう。」


ゲインも頷いている。

確かにあのゴリラ、性格はともかく腕は超一流だ。

魔法を素手ではたき落とす変態だが多少は尊敬してやった方が良いかも知れない。



「今回の調査、ワドは何か当ては有るの?」


シザーが依頼の事を尋ねる。


「そうね…。何か強力なモンスターが流れてきたと思っているわ。」


マスターの話は余り聞いて無かったが、森の生態系が乱れ、本来森の奥にいるモンスターが浅い所まで出てきているらしい。

森の主が変わった時や外から強い魔物が来た時によく起こるとの事だ。


「森には獣人達の集落も有るからまずはそこに向かいましょうか。」


森の集落は人間と比較的仲の良い集団だ。

様々な種族が共生していて、森の恵みを大切にしている。

確かに彼らならもっと詳しい話が聞けるだろう。


「ワドの言う通りだな。行こう。」


ゲインが決定し、ワドを先頭にして森を進む。

途中でゴブリンやウルフ系の魔物と遭遇したが、確かにいつもより外側にいるように感じた。



森の奥まで進むと集落が見えてきた。

簡素な木の柵で囲まれた村だが、村人は腕自慢ばかりだ。

森の奥深くで生活していれば自然と鍛えられるのだろう。


「おお!ゲイン達か!久しぶりだな!」


村長がちょうど外に出てたみたいだ、門番達に声をかける前に呼び止められた。

額に短い角が生えた鬼人族の一員で、上着を脱いで巌のような肉体を見せつけてきた。


「ワシも居るぞ!!」


ドーズが負けじと脱ぎ出す。

マスターを見て鬱憤うっぷんが溜まっていたのだろうか、素早いポージングだ。


「ドーズか!相変わらずデカいな!」


お互いにポーズを決め語り合っている。

いつの間にか村人が集まって来ており、2人の筋肉について語り合っている奴までいる始末だ。


「…先行ってるぞ。」


朝のマスターのでもう十分だと思い、村に入って行く。

シザーも着いて来たので一緒に行く。


「…うーん、前に来た時より少し活気が無い気がするね。」


キョロキョロと周囲を見ながらシザーが呟く。

オレは気付かなかったがもう村にも影響が出ているのかも知れない。


「そうなのか。宿屋に行って聞いてみるか。」


宿屋の子は可愛いかったなと思い出しながら先を急ぐ。

シザーは呆れた顔で「やれやれ…。」とか言っている。



「それで、何か良い情報は聞けたのか?」


ゲイン達が宿屋に来ると早速話しかける。

店の子は声をかけるとすぐに店主が出て来てしまった。

荒くれの集まる宿屋の店主だけあって、強面こわもてで顔に幾筋かの切り傷が刻まれた漢だった。

予定通りしっかりと森の状況を聞き、3人を待っていたのだ。


「やはりヨソから流れて来たモンスターらしいな。」


ゲインが話し始める。

集めて来た情報によるとバジリスクの可能性が高いとの事だった。


「こっちの情報と同じだな。食べ残しの石の欠片がよく見つかるらしい。」


バジリスクは敵を石化して捕食する。その石自体が魔力を帯びた特殊な物なので見間違いは無いだろう。

折角こちらの調べた話を伝えてやったと言うのに、何故かワドが呆れた顔をしていた。


「ただねぇ。普通のバジリスクならツェートが居れば楽勝だけど、もしかしたら変異種かもしれないのよねぇ。」


バジリスクの石化は危険な技だがオレの光魔法で防ぐ事が出来る。

石化が無ければデカいトカゲのような物だが、どうやらそう簡単には行かないかも知れない。


「ワドの言う通り、普通の石化された破片とは別に色がついた石が見つかっている。」


「色付き?そんな変異種聞いた事無いけど…。」


ゲインの言葉にシザーが反応する。

確かに今まで聞いたことの無い話だが。


「各属性に特化した個体はよく現れる。今回も似たようなものじゃないか?」


火山地帯や氷雪地帯などの特別な場所ならよく有る事だ。


「それは分からんが、普通の個体よりは強いだろう。村も協力してくれるから一緒に討伐する予定だ。」


今回の依頼は可能なら原因の排除も含まれているらしい。

村からの依頼でも無いから協力して戦う事も全く問題無い。


「ツェートは変異種が出てくるまでは支援に専念ね。貴方がキーマンなのは変わらないのだから。」


変異種の石化にどれだけオレの魔法が効くか分からないからまずは様子見と言うことか。

石化解除の薬は持って行くが、場合によっては一時撤退もするとの事だ。


「了解だ!いつも通りワシは暴れてやるぞ!!」


最後にドーズが締めくくった。

ドーズは基本作戦に口を挟んだりせず、決まった事を全力でやるタイプだ。

細々とした事を考えるのが好きじゃ無いので信頼する仲間に任せていると言っていた。


明日から早速動く事も決まり、今日は静かに休む事にした。

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