第17話

 わたしは、あの人に会いに行こうかと思いました。きちんと話を聞いて、タリアは気を失っていただけだということを証言してもらえば、タリアの気も収まるかと思って。もし村長に知られても、友達のためなら、規則を破っても大目に見てくれるような気がしました。

 しかし、いざあの小道の前に立ってみると、足が止まりました。突然、足が自分の意思から離れてしまったように動かなくなったのです。

 曇りの夕暮れの光は小道には降り注がず、小道の向こうは夜のように見え、いつもならなんとも思わないはずの暗闇が危険なもののように見えました。

 わたしは引き返し、タリアとわたしから役目を受け継いだという噂の子供を探して捕まえました。

 木登りをしていた男の子を呼びとめて木から降ろさせ、一緒にいた友達には、どこかへ行っているように言いました。

「きみは、あの小屋にいる女の人に会ってるんだろう? あの人に訊いてほしいことがある。あの人が助けたっていうタリアが怪我をしていたかどうか」

 男の子は怯えたような顔になりました。

「あの人に訊く?」

「そう。大事なことなんだ。今度小屋へ行った時でいいから、訊いてほしいんだ。タリアは怪我をしてた?って」

「あの人と話なんて、できないよ」

「どうして?」

「こわいもん。もう一人のやつに頼んでよ。そいつはこわがってないから」

 そう言われたので、わたしはもう一人の男の子のもとへ行きました。その子は、木の枝をナイフで削って遊んでいました。

 同じことを頼むと、「いいよ」と快諾してくれたあと、「あの人からもらったの」と、ポケットからなにかを出して見せてくれました。

 それは、手の平に載るくらいの大きさの、赤黒く汚れた、羽を広げた鳥か虫のように見える硬そうなものでした。以前、あの人が床下からいくつも取り出して見せてくれたものです。

 男の子は、自分が木でつくった人形をあの人にあげて、なにかお返しをちょうだいと言ったらこれをくれたと話してくれました。

「『自分はなにもつくることはできないし、持っているものはこれだけだから』って」

 わたしは、それを触る気になれませんでした。

「なんなんだい、それ」

「蝶形骨だって」

「ちょうけいこつ?」

「人の頭の中にある骨だってさ」

 男の子はそう言って、自分の眉間の辺りを軽く叩いて見せました。

「変な形だよね。面白いから気に入ってる」

「……人の骨をおもちゃにするのは、よくないと思うよ」

「おもちゃにしてないよ。眺めてるだけ」

「誰の骨なの?」

「知らない」

 人の骨を見るのは、それが初めてではありません。土の中からたまたま出てきたという骨を見たことがありました。それは頭がい骨と、なにか大きな腕か脚の骨で、こんなに小さくて繊細な形をしたものが人の骨だとはにわかには信じられない気がしましたが、なんだかそれ以上は尋ねてはいけないような気がして、わたしは立ち去りました。

 それから数週間後、畑仕事をしていたわたしのところにあの男の子が駆け寄ってきました。

「あの人に訊いたよ。タリアは怪我をしたの?って。怪我してたけど、もう大丈夫だろうって」

「どんな怪我だったって?」

「そこまで訊かなかったよ」

「血は出てたって? お腹になにか刺さってたって?」

「知らないよ」

「ほかにはなにか言ってた?」

「なにも。タリアが怪我をしたかどうか訊けって言っただけじゃないか」

 男の子は不機嫌になり、駆け去ってしまいました。

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