第12話 助けて

「まあ、泣きながらでも聞けや。今日は何もしねえ。明日からの3日間は、店に出す前に研修だ。いくら、素人がいいといっても目の前でめそめそ泣かれたんじゃ客もしらけちまうからな」また、げらげらと笑い出した。周りの男たちも、合わせるように笑う。


しばらくして、そこから少し離れた倉庫のような部屋に閉じ込められた。

埃臭い狭い部屋の中で、はめつけの小さな窓から差し込む薄暗い光。

その中にパイプベットとその上に夏布団が置いてある。

上の方には、大きめな扇風機がまわっていた。

うなだれてベットに座ると、凛の顔やあの男たちの顔が脳裏に浮かんでくる。私、凜に嵌められた。親友だと思っていたのに…ううん、勝手に思いたがってただけなのかも。くやしい…。私、これからどうなっちゃうんだろうか?こんなの、テレビの世界だけだと思ってたのに…。しばらくは、ずっと泣いていた。

でも、こんなところで私の人生終わりにしたくない。そう思いなおして立ち上がってドアノブをまわしてみる。叩いてみる。ベットの上にのって窓をたたいてみる。考えつくことをやってはみるものの手が痛くなるだけで、何も変化はなかった。部屋に入るときにバックもとりあげられたので、携帯もない。


それから何時間経ったのだろう。ガチャガチャと鍵のまわる音が聞こえ、いかつい方の男が入ってくる。

「食事だ」そっけない声で、食事が乗っているトレイをベットの上に置いて去ろうとする。

「待って、お、お願いがあります」とっさに出た言葉だ。

「バックの中に、小さな袋があります。…水晶のお守り。とってきてくれませんか?」

「へっ、お守り?今さら、神頼みってか。やめとけ。意味がないぜ」小ばかにしたような目でみながら出て行ったが、しばらくして持ってきてくれた。

「ありがとう」

「…」何も言わなかったが、食べ終わったトレイをもって出ていく。

男が去ってから小袋の中の水晶を取り出す。直径2センチほどの球体。あの占い師の顔が浮かんだ。こんなこと、意味がないかもしれないけど。

水晶に向かって、拉致されてからのことやここから助けだしてほしいとずっーと念じつづけていた。(お願い助けてください)透明な水晶は目の前に重ね合わせた手の平の色を写し出している。


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