第15話 ルシファーの戦い

 時間を少し遡る。


 ゴズは相対した少女を見て、本能的に一歩退いた。今のルシファーは片翼があるとはいえ、みすぼらしい少女の姿そのものだ。しかし、その内側にはゴズが恐怖するほどの、強大な魔力が渦巻いている。


「少し……頭が高いみたいね」


 ルシファーはそう口にし、二本の指を軽く動かす。その瞬間、銀色の細い一筋の光が、ゴズの右腕を切り裂く。


「ブルゥ!?」


 右腕が斬り落とされてから、ようやくゴズは理解する。一刻も早く、目の前の少女の形をしたなにかを殺さないといけない。そうしないとこちらが死ぬ。そう、理解したからこそゴズは走り出す。


 大斧を振り上げ、圧倒的なリーチで攻撃をする。あと少しで大斧がルシファーの頭蓋に届くと言ったところで、先ほどの光が次は数十と大斧に走った。大斧は粉々に砕ける。


「斬」


 たった一言。たった一言口にして、ルシファーは魔法を発動する。ゴズの四肢の上を、無数の光が走る。ゴズは何か対応出来るわけもなく、ただただ切り裂かれていく。


「この程度かしら? 魔物」


 四肢を切り刻まれ、ゴズは立ち上がることすら出来ないまま地面に転がっていた。普通の魔物であれば、ここで絶命し、魔石を落としていただろう。しかし、ここにいるのはAランクオーバーの魔物。急所を破壊されない限り、絶命することはない。


「ブルル……ルルルルルアアアアア!!!!!」


 ゴズが雄叫びを上げると、ゴズの魔力が昂り、失われた四肢を再生させていく。四肢を再生させたゴズは、ルシファーから距離を取る。ゴズは気分が高揚しているのか、拳を握りしめて自信ありげにファイティングポーズを取った。


「やる気は認めてあげるわ。けど、相方は死んだみたいよ」


 ルシファーとゴズはちらりと視線をレイヴンへと向ける。レイヴンの手にはメズの魔石。


「遊びの時間は終わり。貴様みたいな魔物相手では退屈しのぎにすらならないわ。レイヴンといる方がよっぽど有意義だったわね」


 ルシファーがそう口にし、一瞬だけ魔力を解放する。この場で、それがルシファーの見せた本気だと感じたのは、ルシファーの器であり、ルシファーの契約者であるレイヴンだけ。


 無数の斬撃がゴズを切り刻む。魔石だけを残して、ゴズの肉体はルシファーの斬撃で消滅した。


「デス・マンティスといい、お前らといい、やはり邪神のしわざだったみたいね」


 ルシファーはそう言いながら魔石を拾い上げ、黒く濁ったそれを見つめていた。

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