第3話「二人の吸血鬼と竜殺しの英雄と歌う暴君機士(前編)」

「なぜついて来たのです、ネロ・ロームルス卿」


 金色の整った髪、織り目正しく着こなした二つボタンの白いミリタリーコートに藍色ネクタイはジークフリート・ドラゴンスレーヤー卿の軍務に対する真摯な姿勢を顕著に表していた。


「何を言っておるのだ~~♪、ロケットナイトの運用は~~♪ 常に~~♪ 二機体制と聞き及んでおるぞ~~♪」


 ジークフリート・ドラゴンスレーヤー卿のそれに対しネロ・ロームルス卿は髪こそ古代ロームルス式に短く切り揃えていたが支給品とは別あつらえさせた質の良い白のミリタリーコートを本来ある筈の七色機士団機士レインボーナイトコーアに与えられたパーソナルカラーの青いネクタイを外したあげく胸ポケットに垂らし、シルクシャツのボタンを外し首もとを開けるラフな感じに着こなしていた。



 ネロ・ロームルス卿は歌う。



 ルイ・ウエストランド皇帝は北東での巨人機運用試験をジークフリート・ドラゴンスレーヤー卿に任せるとしたがネロ・ロームルス卿が自分の機体は仕様が違うからと強引に試験予定をねじ込んできたのだ。


「それにしても試験地が随分南にずれているのですが?」


 ジークフリート・ドラゴンスレイヤー卿は元々寒冷地での試験をする筈が南にある砂漠地帯の国、ミッドランド王国首長国連邦に居たネロ・ロームルス卿との合流の為、ウエストランド南東部にあるウェストランド円卓帝国加盟国ヘッラス共和国の発射場へと来ていた。


 発射場は幾つもの打ち上げ台と巨大な移動式格納庫のある耐熱魔法のかけられたまっ平な打ち上げ路のある場所で、打ち上げ台は巨人機待機時と打ち上げ時の燃料および電力、魔法力の支援に使われるのだ。


「余の機体は~~♪ 砂漠テストの~~♪ 直ぐあとゆえ~~♪ 配慮が必用だったのだ~~~~♪♪」


 ずれたというよりネロ・ロームルス卿の要望が通ったといった感じだ、どうやらウエストランド円卓帝国はネロ・ロームルス卿を扱いをかねているといった感じだった。


「だから前線から式典機士団に左遷されたのかこの人……」


「何か言ったか~~♪ ジークフリート・ドラゴンスレーヤー卿~~~~♪♪♪♪」


「……いえ」



【第一次(元)寒冷地実戦運用実験、(現)南東部実戦運用試験】



 七色機士団レインボーナイトコーア、機士、ジークフリート・ドラゴンスレーヤー卿とネロ・ロームルス卿の居るウェストランド円卓帝国加盟国ヘッラス共和国はイーストランド連邦領ブルガール公国の南であり情勢は安定していたがイーストランド連邦、愛国民者ヴラド・ワラキア公のいるワラキア公国の眼前であり、その北に位置するワラキア公国の同盟国、トランシルヴァニア同盟の美のみを求める女性、マジャルハザール・エリザベート公のマジャルハザール公国も控えている為、そこに居るのは準戦闘行為と言っても過言のない危険な場所だった。



 巨人機、ロケットナイトの誕生以来戦場は空の彼方にあり世界は狭くなったのだ。



「……もしかして自分は厄介者と厄介事を押し付けられたのでは?」



 ジークフリート・ドラゴンスレーヤー卿はネロ・ロームルス卿と組ませれた事とヴラド・ワラキア公、マジャルハザール・エリザベート公と対峙させられた事に運命の残酷さを感じずには居られなかった。


「ジークフリート・ドラゴンスレーヤー卿よ~~♪ きっと~~♪ 二匹のヴァンパイア公が~♪ 余らにと~♪ 戦の準備を整えておるはずだ~~♪♪」


 ヴラド・ワラキア公、マジャルハザール・エリザベート公が吸血鬼ヴァンパイアであるとの噂は確かにあった、しかしそれは狡猾こうかつさか慎重さかで表だって死者を出したと言う話は聞かない、傲慢で前マジャルハザール公国公王から吸血鬼の能力(魅了)を使い公位を簒奪さんだつしたとされるマジャルハザール公国のマジャルハザール・エリザベート公には嫌な噂が耐えなかったが、ワラキア公国のヴラド・ワラキア公はどのような悪い噂がたってもワラキア公国国民からは信頼される公王だった。


 ちなみマジャルハザール公国では名字が先にくる事を追記しておこう。


「そうですねネロ・ロームルス卿、でも国境の更に向こう側でしょう、ルイ・ウエストランド皇帝陛下の言葉を忘れましたか?」

 ジークフリート・ドラゴンスレーヤー卿は白に藍の肩ラインの巨人機、ロケットナイトRK-5A[パラディン(インディゴ)]の操縦桿を強く握りネロ・ロームルス卿の歌に耐えながら国境線付近に配置され打ち上げ台に固定されたその巨人機からリサイタル中の彼をいさめた。


「た~し~か~♪ コ~チ~ラ~カ~ラ~ワ~テ~ヲ~ダ~ス~ナ~だったかな?~~~~♪♪」

 そして同じく打ち上げ台に固定されたネロ・ロームルス卿の同時開発新型機、白に青の肩ラインの巨人の上半身をもつロケットの巨人機、ロケットナイトRK-6A[サジタリウス(ブルー)]に待機しネロ・ロームルス卿は歌い続けている。


「ネロ・ロームルス卿、そろそろ歌、止めませんか?」

 モニター越しに隣にの打ち上げ台に固定されたネロ・ロームルスの威風堂々の四本足ロケット巨人機、ロケットナイトRK-6A[サジタリウス(ブルー)]に疲弊したジークフリート・ドラゴンスレーヤー卿が目をやる。



「否だ~~♪ 否だよ~~♪ ジークフリート・ドラゴンスレーヤー卿~~♪ 向こうから動いたぞ~~~~♪♪」



 ネロ・ロームルス卿は歌い続ける。



***



 ワラキア公国の打ち上げ場とマジャルハザール公国の打ち上げ場から大地を揺るがす爆音と共に巨大なロケット雲が天へと登った。


「向こうから来た!?」


「おお~~♪ イ~ストランドの~~♪ ヴァンパイア公か~~~~♪♪」


 ワラキア公国、マジャルハザール公国にはイーストランド連邦条約によって供与されたイーストランド連邦の巨人機、ロケットrr-8-g[ブロンズナイトⅣ(フォー)]が配備されてた、ロケットロボット[ブロンズナイト]シリーズは全身が青銅色の巨人機で、金属色はイーストランド連邦ルーシ帝国の伝統的な巨人機のカラーとなっておりイーストランド連邦が開発したの四基のロケットエンジンを底部に配置した円錐状のロケット本体を更に五本束ね下半身に広がる様に配置した、束ねロケットスカート巨人機であり、機動性に劣る代わりに巡航能力に優れた機体だとウェストランド円卓帝国では分析されていた。


「し~か~し~♪ ブロンズナイトで~~♪ 余の新型機と~~♪ 戦いに~~♪ なろうかな~~~~♪♪」


「確かに、向こうから来るなんてどういう事だ?」


 ジークフリート・ドラゴンスレーヤー卿は違和感を覚えた、国境付近で新型機の試験など挑発行為以外の何者でもなかったが、嫌な噂の絶えないマジャルハザール・エリザベート公はともかくヴラド・ワラキア公は国民の為ならなりふり構わぬ愛国民者だとの話だ、イーストランド連邦についたのだってウエストランド円卓帝国についてイーストランド連邦ルーシ帝国と対峙にするよりイーストランド連邦についてウエストランド円卓帝国を正面に向かえた方が紛争を避けられ国民が安全だと考えたからであろうとウェストランド円卓帝国の分析では思われていた。


「当然~~♪ 勝てる見込みか~~♪ 戦わざるおえん理由が~~♪ あるのだろ~~~~♪♪」


「待って下さい、あれはなんですネロ・ロームルス卿?」


 遠くに見える二つの巨大なロケット雲の両脇から更に小さなロケット雲が二本づつ四本上がって行く。


「相手は六機?! バカな! ワラキア公国もマジャルハザール公国ここで本気で戦争するつもりなのか!!」


「さあな~~♪ ジークフリート・ドラゴンスレーヤー卿~~♪ 行けばわかるのだ~~~~~~~~~~~~♪♪♪♪」


 そう歌った、ネロ・ロームルス卿は四本足のロケットエンジンに火を放った。


 四本足ロケット巨人機、ロケットナイトRK-6A[サジタリウス(ブルー)]が打ち上げられる。


「自分も行きます!!」


 次いでジークフリート・ドラゴンスレーヤー卿も二本足のロケットエンジンに点火しロケットナイトRK-5A[パラディン(インディゴ)]を打ち上げた、怒号のような爆音が大地を揺るがし巨大なロケット雲が天に伸びた。

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