第16話後編⑥

唐突なデュークの告白だったが、当のマリーの耳には届いていなかった。


マリーにそんな心の余裕などない。


頭を抱え、ガタガタと身を震わせるばかりだ。


だが、それを見かねたデュークが、さり気無くマリーの髪の毛に手を掛けようとした瞬間、


「——い、嫌よっ!」


「おいおい……その態度はないんじゃないかい?  勇気を出して一世一代の告白をしたって言うのに。……いくら僕でも傷つくよ?」


「私から離れてっ! もうたくさんよっ! もうたくさんなのっ!」


「……やれやれ。これじゃまともに話もできないな。仕方がない……やれ」


まるで化け物でも見たかのように怯えた目でデュークから尻餅をつきながらも距離を置こうとするマリー。


そんな彼女を見て、デュークは側で控えていた使用人に合図を送り、マリーが逃げないように床に押さえつけ、有無を言わさぬ口調で言った。


「マリー、これは命令だ。と婚約しろ。そうしたらロディの事は許してやる。君に拒否権はない」


ロディという言葉が彼の口から飛び出た瞬間、マリーは少しだけ大人しくなった。


全てはデュークの掌の上の事だっだが、罪悪感と自身に対する嫌悪感で一杯の彼女には、そこまで気は回らなかった。


「……私なんかと居ても碌な事はないって貴方が一番……」


「知ってるさ」


「じゃあ、何で……」


自分の忌まわしい力を知りつつ、傍に置いておきたいなんて意味が分からない。


そして、それは次にデュークがあっけらかんと言い放った言葉が余計に助長させた。


「そんなの簡単さ。僕は君の魅了に掛けられたいのさ」


「……ぇ?」


予想だにしていなかったデュークの答えに面食らうマリー。


「いいじゃないか。君だってどうせこの先まともな恋なんてできやしないだろう?」


「それは……そんな事……!」


心の底で、未だにロマンティックな恋に憧れていたマリーは、声を振り絞って必死に否定したが、


「二人目のロディなんて君だって生み出したくはないはずだ。君が居る事でまともな男は傍にいるだけで正気を失う。何度言わせたら気が済むんだい? マリー」


「……」


デュークの放つ言葉は一語一句が刃物のようにマリーの心を抉り、彼女から希望を奪い去り、絶望で埋め尽くすには十分すぎた。


——蝋燭の灯が消えるように、色を失ったマリーの顔を確認して、デュークは、


「マリー、これが最後だ。僕の婚約を受け入れてくれるよね」


「…………はい」


全く力のない言葉。


しかしその返事を聞き、満足げな笑みを浮かべるデューク。


「ありがとう。大好きだよマリー」

 

そう言うと、デュークは使用人らを下がらせた。


そして床に座り込んでいるマリーの腕を掴んで立ち上がらせ、嫌がる素振りなど一切見せず、為されるがままの彼女の真紅の唇に接吻した。


――こうして二人は婚約を交わす仲になったが……。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る