異世界空港のお仕事!〜保安部職員は日々戦う〜

佐倉涼@4シリーズ書籍化

第1話 プロローグ 空賊の襲来

 世界最大の空港エア・グランドゥール。上空一万メートルに位置するこの空港の第七ターミナルは現在、阿鼻叫喚の只中にあった。


「空賊、竜の爪痕の襲来だ!!」


 賊の数は五百人。悪名高き空賊の襲撃により、利用客は退避し保安部の職員と王国の騎士、そして有志の冒険者による混成部隊が現在交戦中だった。


「ルド、助かった」


「勝手に突っ込んで行くなよ!」


 保安部職員のルドルフは相方のデルイとともに敵の真っ只中にいた。

 保安部の業務というのは空港の治安を守ることを第一としている。襲撃してきた空賊を食い止め、他のエリアへと足を踏み入らせず、短時間で撤退まで追い込むことを第一としている。

 だからターミナルの出入口付近に陣取って、そこを守ればいい。

 

 なのにだ。


「どうしてお前は敵の真ん中に踏み込んで行くんだ!」


 あろうことかデルイは、なんのためらいも見せずに敵陣のど真ん中へと駆け出して行きそこで交戦を始めたのだ。しかも右手一本で。

 相方を見殺しにするわけにもいかず、ルドルフまでもこうして持ち場を離れて敵に囲まれる羽目になってしまった。


「不可抗力だ。俺の職務は空賊の迎撃じゃなかったからな」


 やたらに整った顔立ちに好戦的な表情を浮かべ、襟足まであるピンクの髪をなびかせながらデルイは軽口を叩く。会話をしながらも二人は敵と斬り結んでいた。

 器用に片手で敵を撃退しながら、味方の陣地へ戻るべくジリジリと進んで行く。デルイの肩の上から、可愛らしい声が降って来た。


「デルイさん、かっこいい……」


「あ、そう? よく言われる」


「この状況で冗談を言っている場合か!」


 デルイが右手しか使えない理由はここにあった。彼は左手で、女の子を抱きかかえているのだ。ピンクのふわふわしたドレスを着た十歳ほどの女の子は今しがたデルイに救出されたところで、そしてデルイは彼女を守りながら戦っている。

 ピンチを救ってもらったばかりかこうして抱きとめられ、守られながら間近で戦うデルイの姿を見て女の子は完全に恋する乙女の瞳になっていた。


「私の王子様……!」


「俺は王子って柄じゃないかなぁ」


 あまりにも言い寄られることに慣れているデルイは、そう軽く言った。


「おいデルイ、空賊の頭が向かって来ている」


「げっ」


 居並ぶその他大勢の雑魚を切り捨てたデルイはルドルフの言う方向を見て顔をしかめた。スキンヘッドに全身刺青が入った、見た目からして厳しい男が確かにやってくる。

 竜の爪痕の頭は個人でSSランクの戦力を有しているという専らの噂だ。

 そんな人間に、片手で立ち向かえるほどデルイは強くない。ルドルフだってそうだ。


「うーん、ちょっとヤバイかもな」


「なんとか切り抜けないと、お前も俺も死んでその子がまた攫われる羽目になるぞ」


「それはゴメンだね」


 さてどうするか、わずかに考えた矢先にターミナルに暗い影が落ちた。

 頭上に何かが出現し、それが天井を覆っている。

 この混戦を極める中、一石を投じるものの出現に皆が一様に天井を見上げ、そして目を見張った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る