はずれ

巫 歪

「私」は東京都に生まれた。

東京生まれです。と言うと、ある程度いい生活をしていると思われるが、残念ながら「私」の家は違った。


「私」の家は、’’ど貧乏’’ だった。


「私」や6つ年上の兄が生まれる前、父は会社の社長だった。大きい会社ではなかったが、結構裕福な生活をしていたらしい。

ところが、不景気により会社の経営は傾き、あっという間に倒産してしまった。

「私」の家族は一気に貧窮した。


「私」が物心付いた頃は、私たち一家は東京のはずれにあるボロッボロの小さなアパートに住んでいた。錆びついた階段、突然止まる水道、なかなかお湯が出てこない風呂。近所の人からはあまり近づきたくない、なんて言われていたとか。


でも「私」はその生活に特に不満を感じてはいなかった。

両親は「私」を愛していたし、ヤンチャでろくに母の言うことを聞かない俗に言う’’クソガキ’’だったが、「私」には優しかった。


お小遣いなんてほとんど与えられたことはなかったが、小さな卓袱台の上にご飯と味噌汁、ほんの少しのおかず。満腹になるまでたらふく食べた記憶はないが、それでも家族四人で食事を囲むのが小さな幸せだった。お小遣いなんてなくても、家族さえいれば幸せだった。



この幸せは一生続くと思っていた。


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