第7話 確認すること。

 マレは目を覚ました時、柔らかい物に包まれているような感じを覚えた。

 体を伸ばし、少しずつ意識がはっきりとしてくると、

(ああ、そうか、夢じゃなかったんだな)

 左側を下にして眠っていたので、仰向けになってみると真っ白な天井が目に入り、右側に顔を向けると窓のカーテン越しに朝日が入ってきているのが分かる。

 マレはもう一度ベッドの中で体を伸ばし、起き上がると枕を背中に当て壁に寄りかかり、ぼんやりと窓を見る。

 昨日感じた体の痛みは落ち着いてきて、呼吸をしても昨日ほどの激痛は走らなかった。


 しばらく窓の外を見ていたら、ノックが聞こえた。

 マレが返事をするとガエウの声で返事があったのでベッドから降りてサンダルを履くとドアを開けに行く。

 ドアを開けると、ガエウはにこにこと笑いながら、

「おはよう、マレ。食事の準備ができたらしいから、食堂に行こうか?」

「じゃあ、着替えてきます。少し待っていてください」

 とマレは言って一旦ドアを閉め、急いでチェストの中から洋服を出すと、寝間着を脱ぐ。

 シンプルな洋服なので、着替えにはそう時間はかからない。

 すっぽりと頭から洋服を被り、腰ひもを簡単に結ぶとドアに向かう。

 一呼吸しからドアを開けるとガエウに、

「お待たせしました」

 と声をかけ一緒に食堂へと向かった。 


 食堂に向かいながらガエウは、

「よく眠れたかの?」

 と前をむいたまま優しい声で聞いてくる。

 マレは少し前を歩くガエウに、

「ええ。布団が柔らかくて、包まれているような感じでぐっすりと眠れましたよ」

 マレがそう言うとガエウは少しほっとしたような声を出して、

「そうか、よかった。部屋のことで何かあれば言ってくれ。対処はする」

 ガエウの言葉に頷くと、

「食堂についたぞ」

 目の前のドアを開けて、2人で中に入る。

 食堂は昨日の会議に使った部屋の半分ほどで4人掛けの木材のテーブルが置いてあるのみで他に家具は置いていない。

 

 マレは部屋を見回してから正面を見て、息をのむ。

 アリーナが窓際に立っていて、プラチナブロンドの髪が光に反射し輝いている姿は神々しささえ感じる。

 マレがその姿に見惚れていると、アリーナはこちらを向き、

「おはようございます」

 とガラスが響き合うような透明感のある声で挨拶をしてくる。

 ガエウはいつものように、

「アリーナおはよう」

 と挨拶したが、マレはアリーナに見惚れていたので、少し遅れて、

「おはようございます」

 と慌てて挨拶する。

「では、食事をするかの」

 ガエウの一声でアリーナはガエウの対面、マレはガエウの左隣に座る。


 テーブルの中央にこんもりとパンが盛られている皿と各自座った席の前にサラダとスープが置いてある。

 ガエウがサラダを盛っている皿にパンを2個乗せるとアリーナも続き、最後にマレもパンを2個サラダに乗せる。

「では、食べようかの」

 ガエウの言葉で食事が始まる。

 マレは昨日の考えの答えが早くほしくて、食事が始まったばかりだが2人に向けて、

「昨日、寝る前に思ったのだが……」

 と話し始めると2人の視線がマレに向く。

 マレは持っていたパンを皿に置くと、

「この国には結界が張っていて悪意のある人間は入れないんだよな?」

 マレの言葉に2人は頷く。

「じゃあさ、悪意のない人間は入れるのか?」

 マレの言葉に2人とも固まる。

 しばし、沈黙が流れたあとガエウは呻いたあとに、

「その可能性は考えていなかった。結界を張る前にこの土地を歩きまわったが、人の気配は微塵もなかった。結界を張った後、悪意のない人間が入ってきたとしても、何もない土地だ。生活をするのは難しいのではないか?」

「生活するのが難しい?」

 マレは疑問に思って聞き返す。

「ああ。まず、家を無事に建てたとしても、食料の確保が難しい。畑を作るにも、元になるものがないとできないであろう?」

「それなら、隣国から当面の食料を持ってきて、畑を作るのに必要な種なども持ってきていたら?」

 マレの答えにガエウは険しい顔をして考え込む。

 ぶつぶつと言ったあと、アリーナに顔を向けると、

「アリーナ、水晶玉でそういったことはわかるだろうか?」

 と質問する。

 2人の会話を静かに聞いていたアリーナは、

「確認できます」

 と強い口調で肯定する。

 ガエウはその答えに頷くと、

「では、すまんが、食後でいいので確認してもらえるかの?」

 アリーナは頷く。

「マレありがとう。確認してみよう。それで人がいるなら、国を作る手伝いをしてもらえばいいな?」

 マレとアリーナは頷く。

「よし、食事を再開させるかのう」

 その言葉以降、誰も話さずに食事が終わった。


「アリーナ、片付けはやっておくから、確認してきてくれないか?」

「はい、では、宜しくお願い致します」

 アリーナは自分が使っていた食器とカトラリーをまとめると、ガエウに一礼して部屋を出る。

 マレは、目で見送りながら、使った食器を片付けると、

「キッチンはどこにあるんだ?」

 ガエウに尋ねる。

「今、ドアを開けるぞ」

 ガエウは立ち上がると右側にあるドアを開ける。

 マレは、テーブルの上にある皿とカトラリーをすべてまとめ、手に持つと、ガエウの開けたドアに向かって歩く。

「どこに置けばいい?」

 ガエウに確認すると、

「かまどの横にある台の上にのせてくれ」

 マレはその言葉通りに壁際にあるかまどを目指し歩くと、ガエウの言った台があったのでその上に置いておく。

「あとは、わしがやるから、アリーナの答えが出るまで、部屋で待っていてくれ」

 ガエウは、しっしっと追い払うような仕草をして、キッチンからも食堂からも追い払う。

 マレはため息をついたが、しかたない、と呟いて部屋に戻った。

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