第16話


◎  第9話  帰還〜秋


カラスに襲われたり、にんげんの釣針に襲われたりと危険続きの旅。

いつのまにか鮭くんの背中も、鮭ちゃんの背中にもあちこちに傷跡が。

また、かえるくんの片目も失くなってしまいました。

みんな傷だらけです。

それでも鮭くんとかえるくんは、川の上流の故郷を目指します。


ゆったりとした川の流れは、だんだんと早くなってきました。


危険はさらに続きます。


今度は川の流れが二手に分かれています。

大きい方と小さい方。

大きい方が流れもゆったりとしています。

かえるくんたちより先にいる鮭たちの多くが、この大きな流れの方を上っていきます。


大きい方と小さい方。

網がある方と無い方です。

網がある方。

これは遡上する鮭を集めて、人工的にそのたまごを採取するために人間が作ったものです。


「鮭くん、大きい方はダメだよ。小さい方に行こう」

かえるくんは、直感的に大きい方を避けました。


「かえるくんに任せるよ」



大きい方を上っていったたくさんの鮭。

このあと、二度と会うことはありませんでした。


流れの早い小さい方。

魚道を上っていく鮭くんとかえるくんと鮭ちゃん。


しかし。

しばらくして。

見えない網に鮭くんがからまってしまいました。

見えない網。

それは一部のにんげんが鮭を捕まえるために不法に仕掛けた漁網です。

その網は大きくて重く、もがけばもがくほど鮭くんの身体をからめていきます。

大きくて力の強い鮭くんがどんなに動いても、網は解けません。

網にからまった鮭くんの身体を助けようと、鮭ちゃんが前後左右から鮭くんを押しますが、びくともしません。

もちろん小さなかえるくんの力では、どうにもなりません。

鮭くんも鮭ちゃんも力いっぱい、何度も何度も網を解こうとしますが、今度ばかりはどうにもなりません。

そしてとうとう。

網で身体も傷つき、力も尽きてしました。

鮭くんも鮭ちゃんももう動くこともできません。

ついには、ため息を吐くしかできなくなりました。


鮭くんがいいます。


「あと少しだったのに・・・残念だよ。せめてかえるくんと鮭ちゃんだけでも故郷に帰ってくれよ」


「ううっ・・・」


鮭ちゃんが泣きます。


「ううっ・・・」


かえるくんも頭を下げて涙を流します。


チリリン。

その時。

かえるくんの首からぶら下げた鈴が鳴りました。


鈴。


ねこのシロから預かったキナコの鈴です。


そう!


シロから預かった、あの鈴です。


下を向いていたかえるくんが頭を上げます。


「鮭くん、まだあきらめちゃダメだ」


「でもかえるくん、今度ばかりはもう・・・」


「あきらめちゃダメだ!これだよ!」



「この鈴がぼくらを助けてくれるんだ」


鮭くんから飛び降りたかえるくんです。

そのまま川の中央にある中洲のテトラポットの上に登ったかえるくん。

シロから預かったキナコの鈴を頭上に掲げます。


「お願い。キナコさん助けて!」


力いっぱい鈴を揺らすかえるくんです。


チリリーン


チリリーン


あたりに鈴の音が広がります。


しかし。

しばらく待っても、なにも起こりません。


「お願い。キナコさん助けて!」


チリリーン


チリリーン


ふたたび、あたりに鈴の音が広がります。


「キナコさん助けて〜!」


それでも、なにも起こりません。

かえるくんと鮭くん、鮭ちゃん。

みんながあきらめかけたそのときです。



にゃお〜〜ん


遠くからねこの鳴き声が聞こえた気がするかえるくんです。

かえるくん、鳴き声がした川の向こうを振り返ります。

しばらくして。


にゃお〜〜ん!!


今度ははっきりとその声が聞こえました。

河原を走ってくる、片目のねこ。

キナコです。

キナコが駆けつけてくれました。


「鈴の音、まさかと思ったが・・・やっぱり!」


「帰ってきたんだな」


キナコが顔をくしゃくしゃにして笑います。


「キナコさん、来てくれたんだ」


かえるくん、うれしくて何度も何度も飛び上がります。


「話はあとだ」


網にからまった鮭くんを見て、すぐに状況がわかったキナコです。


「いろいろと旅の話を聞きたいが、まずはその網を外さなきゃな」


そうは言いますが、どう見ても網は重くて大きくて。

キナコの力でもどうにかなるようには見えません。


「大丈夫。心配しなくていいよ。ちょっと待ってろよ」


来たときと同じような駆け足で、キナコが川の向こうに消えました。



しばらくして。


キナコはにんげんの女の子を呼んできてくれました。


しきりについてこいと鳴くキナコに何かを感じたにんげんの女の子です。


キナコが向かった先に。

網にかかった鮭と、付近にはもう1匹の鮭。

そしてその網の鮭の上にかえるがいます。


よく見ると、そのかえるは首から鈴をぶら下げています。



「鈴!えっ!?これってキナコの鈴?」


「なんでかえるがキナコの鈴を?」


そう、女の子がよく見るとその鈴は、昔キナコがつけていた鈴です。


にやおーん、にやおーん


女の子の足元で鳴き続けるキナコ。


「この鮭を助けろってことね」


女の子は靴を脱いで、網にからまった鮭くんを助けてあげました。


網から解放された鮭くん。

勢いよく泳ぎます。

うれしそうに鮭くんの周りを泳ぐ鮭ちゃん。

いつしかキナコの背中に乗ったかえるくん。

みんながとっても嬉しそうです。


この様子を見た女の子。

鮭やかえる、そしてねこのみんなが仲良しなんだと理解しました。


女の子の足の周りを泳ぐ鮭が2匹。

鈴を抱えたかえるもいます。


「よかったね」


女の子が3匹に語りかけます。


「キナコさん、そしてにんげんさんもありがとう」


「ありがとう」

「ありがとう」



言葉は通じませんが、みんなの気持ちが通じた瞬間です。


「キナコさん、鈴を返さなきゃ!」


「いいよ。これはかえるくんが持ってろよ。そして、何かあったらまたこれで呼んでくれよ。そのときはすぐにかけつけるから」


「ありがとう」

「ありがとう」

「ありがとう」


「さぁ今度こそ帰ろう!」


「さよならー」

にやおーん


キナコと女の子に別れを告げてふたたび川を上ります。


その後、危険もなくてこの後の旅は順調に進みました。


そして。

遠くに故郷のブナの木が見えてきました。


「鮭くん、見えたよ」


「ブナの木だよ。とうとう帰ってきたんだ」


鮭くんとかえるくん、鮭ちゃん。

ついにさんにんの旅が終わろうとしています。

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