第14話 さらば、ライトよ(2)

「おっ、見えてきたぞー!!」

 モブはそう言いながら、目の前を指差した。

 モブとライトがいた場所は魔物に襲われても逃げられるような見晴らしの良いがけの近くだった。

 崖を下りれば、またも全面草原の何もない場所なのだ。

 ゲームだとそんなに感じないが、実際に体験するとわかる。

 たまに林やちっちゃな湖がある程度で、それ以外はずっと草原だ。たまに絶壁ぜっぺきのように見える崖がある程度で、面白みのない平坦へいたんな世界だ。

 それを誤魔化すかのように、山賊や魔物が大量にエンカウントしてくる。だが、二人の様子を見たところ、戦ったような形跡が見当たらない。それすら無かったら、本当に虚無だ。


 哀しみのクリスタルは島の北側にあるさびれた場所に存在する。


 なんと、地面に刺さっているのだ。


 大草原に。


 ポツンと。


 初見プレイでは見逃すくらい存在感の薄いクリスタルなのだ。


「さて、行くぞ!!」

 クリスタルへ向かおうとするモブの前に出て、モブの前に右手を出した。

「なっ……まさかまた!?」

 そう言うと、モブはライトに向けて盾を構えた。ライトは嫌そうな顔で見つめている。

「ライト、お願いがあるんだけど」

 私がそう言うと、ぱっと明るい顔をしながらライトは勢いよくこちらに顔を向けた。ハッとなって頬をふくらませながら、私から視線を反らした。

「まっ、まぁ??聞いてやらんことも無いけど??」

「クリスタル一直線に歩いていって」

 その言葉に、ライトは怪訝けげんそうな顔をした。そんな簡単なことを……と不満そうな顔をしながら、歩いていきゴンッと音を立てて倒れた。


「実はね、これ……トリックがあるの」

「えっ⁉」

 私がそう言うと、モブは驚いて私の方へ振り返った。ライトは倒れながら、こちらを見ていた。

「ライトが今ぶつかったのは、見えない強固な壁よ。トリックを解かない限り、目の前のクリスタルを手に入れることはできないわ」

「ねぇ……今僕がぶつかった意味……」

「さぁ!!トリックはすべて頭に入ってるから、あんた達は私の言われた通りにしなさい!!」


 有無を言わさず、私は監督になった。

「まず、モブ!!そこから東へ三歩、北に一歩進んで!!」

「はっはい!!」

 モブは言われた通り、東……北へと進んだ。立ち止まった途端、モブの足元に赤い魔法陣が現れた。

「うぉっ⁉なんか出たぞ!!」


「よし!!次、ライトはさっきと同じくまっすぐ歩いて!!」

「えっ、ヤダよ。またぶつか……」

「ほら!!はよ!!」

 ライトは渋々歩き始めた。先ほどぶつかった場所を通り過ぎた。モブが出した魔法陣によって、見えない壁は無くなっていたのだ。


「ストップ!!」

 私の声に、ライトは足を止めた。

「モブ、そこから南に一歩、東に十歩!!」

「おぅ!!」

 そう言って、モブは南、東へと歩き始めた。目的の場所に着いた途端、次は緑糸の魔法陣がモブを包んだ。そして、私の横に瞬間移動したのだ。

「おわっ⁉」

「お帰りー」


「俺……魔法陣で移動できた」

 驚いているモブに、私はオチを言っていいのか少しだけ悩んだ。まぁ、勘違いするよりは、伝えてあげるのも優しさだろう。

「あれ、魔法陣に強力な魔力が仕込まれてるから動いただけで、普通の移動陣は、モブには無理だよ」

「ねぇー!!僕も戻りたいんだけ……ぐへっ!!⁇」


「なぁ……あれ、いいの⁇」

 モブが指差した先には、壁にさえぎられて戻れないライトの姿があった。

「うん。あれでいいの」

 私はそう返すと、息を吸ってライトに聞こえるように大きな声を出した。

「ライトー!!そっからクリスタル側に向かって歩けるようになってるから、そっちへ行ってー!!」

 私の声が聞こえたライトは頷こうとしたが、何かを思ったのか返答してきた。

「じゃあ、クリスタルを取ったら、僕も救世主の名前で呼んでもいいー⁇」

「あぁ、いいよー早くいけー」

 そう言うと、ライトは満面の笑みを浮かべた。だが、ハッとして怒った顔をしながらクリスタルに向かって歩き始めた。

「……なぁ、松。最初からそう呼ばしてやればよかったんじゃね⁇」

 ライトのことを不憫ふびんに思ったのだろう。モブが悲しい目をしながら、私を見つめてきた。まぁ、それもここで終わりだ。


「うわっ⁉」

 クリスタルに近づく直前に、ライトの身体に触手が巻き付いた。

「なっ⁉大丈夫か!!ライト!!!!」

 モブが助けに入ろうと走りだしたが、見えない壁に邪魔をされて助けに行けない。にょきにょきと姿を現したのは、どでかいタコ型の魔物だ。コイツもボス扱いなのだが、ここでのイベントは私は好きだ。

 私はクリスタルに向かって歩き始めた。

「あっ、おい!!危な……」

 私は見えない壁に邪魔されることなく、スタスタとクリスタルへ近づいて行った。

 実は、二つの魔法陣を使用すると特殊な効果があり、主人公だけ通れるようになるのだ。どんな原理かは知らないけど。

「あっ、救世主!!」

 タコに締め付けられながら、私に声をかけてきたライトの方を私は見た。

「……別に、これくらい僕一人で十分だし。さっさとクリスタル取って行けば⁇」

「うん、じゃあ」

「……えっ⁇」

 私はスタスタと哀しみのクリスタルに近づき、引っ張って手に持った。つかんだ途端、クリスタルは光り輝いて手のひらサイズの大きさに変わった。

 それを確認した私は、モブが待つ場所まで歩いて戻ったのだ。


「……ライト、助けないの⁇」

 モブが目を丸くしながら、私を見つめていた。私はうなずいて城に向かって歩き始めた。

「えっ⁉本当に!!⁇ライト、危ないっしょ!!⁇」

「大丈夫。あのタコは魔法に弱いから、いつか勝てるでしょう」

 確か、クリスタルを取ると、タコが哀しみパワーでさらに強くなってしまうのだ。だが、ライトなら大丈夫だろう。

 だって、彼はなのだから。


「おぉっ、松子よ。良く戻ったな。どれ、哀しみのクリスタルを渡してくれるかな⁇」

 王の間で、いつものように王様にひざまずいている私は、立ち上がって王様へ近づいてクリスタルを献上けんじょうした。

「ふむ。最後は楽しみのクリスタルじゃな。それは西の村にたてまつられておる。それを受け取ってくるがいい。さぁ、行け!!!!」

 いつものように、ワーワーと騒ぐ騎士達に飽きながら、私は王の間を後にした。

 目指すは……


 リクルンの執務室だ!!!!!!!!

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