第5話 神様、仏様(2)

 おかしい。おかしいのだ。

 ゲームでは無駄に長いうんちくを披露ひろうする神が、少し考え事をしている間に話を終わらせるなんて……もしかしたら、私の考えごとが長かったのだろうか。それとも主人公には、特殊能力でスキップ機能が付いているのだろうか。主人公能力が付いていると言うことなら、私は主人公を全うしていると言うことではないか。それならやはり、今まで出てきた攻略対象が攻略対象らしくないということだ。

『一人で百面相しとるようじゃが、もう良いかの??』

「んっ??そいえば、最初は威厳いげんありそうなしゃべりだった気がするんだけど……今は何かおじいちゃん喋りじゃない??」

 神は黙ったまま、ポリポリと音を立てた。

『いやーの??お主、人の話を聞かんじゃろ。頑張って威厳を保っても、お主の心には一ミリも響かんじゃろ。それなら、わしも気ぃーゆるぅーくやろうかて問題ないじゃろ??』

「なるほど……??」

 神も役目を放棄するのかと思ったら、やる気を失っているようだ。ゴロゴロと音がするので、寝転がりながら私と対話をしている可能性がある。

「あのさ、神様ってなんかとーっても話が長いイメージだったんだけど……話は省略した感じ??」

 またも神は黙り込み、ポリポリと音を立てていた。

『さっきもゆったがの……お主は人の話を聞かんじゃろ??だから必要なことだけを話したんじゃよ』

「えっ神様って話を短くできんの??」

 私は、驚きのあまり目を大きく開けた。それができるなら、ゲームプレイ時もやってほしかった。そうしたら、もっとゲームの周回を楽できたというのに。

『ほっほっほっ。儂かて無駄な時間は過ごしたくないのじゃ』

「じゃあ、話を省略したからチート能力も省略とか言わない??」

 私は、祠にくっつき懇願こんがんするような目で祠を見つめた。

『ほっほっほーっ。チート能力とは何のことかわからんが、異界の者はこの世界のことわりをもたないからの。じゃからこの世界と親和できるよう、四大属性の力を授けたぞ』

「おぉっ!!いつの間に」

 私は、手をグーパーさせた。別段、変わったところはない。だが、神様が言うのだ。間違いなく、パワーが宿っているに違いない。

『そうそう、そなたは聖女とは……』

 神様が何か言っていたが、私はとりあえず一つ目の片付けをすることにした。

 

 私は結界を出て、外で待ちくたびれている山賊らの前に勢いよく飛び出した。

「おっ??やーっと終わったか!!待ちくたびれて眠っちまうかと思ったぜ」

 山賊の中の誰かがそう言うと、その声に合わせて他の山賊らはギャハハハと汚い笑い声を上げた。何を思ったのか先程よりも山賊の人数が増えているのだ。か弱い女一人に対しての人数ではない。

「……まぁいい。待たせたな」

 私はそう言うと自分の中で、一番カッコいいと思うポーズを取った。山賊らはその姿に口を開けて、ポカーンとしていた。

「……はっ!!阿呆なことをして、俺達を油断させて逃げようったってそうはいかねぇぞ!!」

 誰かが声を上げたのと、周りはそーだそーだと賛同し始めた。コイツらは金魚のフンなのかと、疑問に思ってしまう。

「か弱き乙女を追っかけ回す悪の集団よ!!私がみずか鉄槌てっついくだす!!」

「うっそつけー!!騎士団副団長をったのを俺は見たぞ!!」

「お前こそ悪人じゃねぇーか!!」

 先程の山賊もこの中にいるようだ。だが、一つだけコイツらは間違っている。私は、騎士団副団長ことラルフを殺してはいない。ただ、その場から動けなくしただけだ。不慮の事故なのだ。帰る途中にまだ居たら、警備隊に拾ってくるよう伝えねばならない。

「どちらが正しいかなんて、勝ったほうが正しいに決まっているじゃないの!!」

 そう言うと、私は両手を広げて力を込めた。どうやるかは神様がちゃちゃっと言ってしまったから分からない。

 だが、きっとこの世界に初めて来たときと同じように気合を入れればいいだろう。

「行くぞ!!野郎どもー!!!!」

「燃えろぉぉぉぉっ!!ファイアアァァァァァァッッッ!!!!」

 私の掛け声とともに、手の内側がピカッと光った。これは成功だと思った次の瞬間、魔の森は火の海と化したのだ。

 

「燃えるー!!」

「たすけてくれぇー!!」

「死にたくねぇよ!!かぁちゃぁぁぁん!!!!」

「この悪魔ぁぁぁっ!!!!」

「ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

 山賊らは全員、炎に包まれたのだ。おかしい。こんなに強力な魔法の予定ではなかったのに……。遠くの砦も燃えているようだ。だが、安心してほしい。主人公の魔法は不殺生ふせっしょうなのだ。今燃えている彼らは、汚れた心を浄化しているのだ。その証拠に、炎の色は赤ではなくピンク色だ。これぞ愛の力と言うことだ。

 ただ、一つだけ問題がある。それは、心が浄化された元悪人は産まれたてのヒヨコのような目に、パンツ一丁の姿となるのだ。いったい誰得なのだ。

「あっ、忘れるところだった!!」

 炎に包まれた山賊を背に、私は神様の元へ向かった。二つ目の片付けをしなくてはならない。

『おっ、松子よ。やっと帰ってきたのー』

 だらけている神様に向かって、私は大声で叫んだ。

「うっせー!!さっきから松子って呼ぶんじゃねぇー!!!!!!!!」

 もう神からは力をもらったのだ。このくらい言ってもいいだろう。

 また神は黙ってポリポリと音を立てた。

『いや……それはお主の名前じゃろうが』

 至極真っ当なことを神に言われて、私はぐうの音も出ない。それならば、力で示すしかないかとこぶしに力を入れた時だ。

『それより松子よ。そなたはわかっているかの??』

「えっ??何を……ってかまたは松子言いやがって!!」

 またも神は黙って、ポリポリと音を立てる。

『お主、儂がこの世界の神じゃということを忘れとるの??』

 その言葉に、私は全身が凍りついた。この神……いや、神様は私をおどし……さとしているのだ。この世の神様に逆らうと何が起きるかわからないと。

 私は祠の前でひざまずき、誠心誠意を込めてお祈りを始めた。

「ははーっ!!神様、仏様。有難様ですー!!!!」

 もう夢なら早く覚めてほしい。とっととここから抜け出したいものだ。

『なーに、冗談じゃよ。ほっほっほーっ』

 ポリポリと音を立てながら笑う神様ほど、怖いものはない。私は怒らせないように必死にゴマすりをしたのだった。

 

 神様をあがめ終えて、私は死にそうな顔で結界の外に出た。

「……げっ。忘れてた」

 目の前には、産まれたてのヒヨコのようなつぶらな瞳に、パンツ一丁の山賊らが正座して待っていた。

 いつの間にか山賊のお頭も来ていたようだ。山賊の人数が当初とは比べ物にならないほど増えているのだ。そういえば砦も燃えたんだったと思いだしつつ、私は大きなため息をついた。

「救世主様。我々は心を入れ替えました」

 親方がそう言い、私を崇めるようにお祈りをし始める。それを真似するように、他の山賊らもお祈りを始めたのだ。

「あんた達……せめてそこら辺の葉っぱで、身体を隠しなさいよ!!」

 パンツ一丁の男らに囲まれるようなイベントは存在しないのに、私は新たなイベントを設立してしまったようだ。

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