古からの伝統


「明もついに最後の試練を突破したんじゃなぁ……」


「感慨深いわね……」


 じいちゃんと母さんからは、最終回みたいな雰囲気が流れている。

 事実七つ目の怪異だから、いよいよ俺の自由研究にも終わりが近づいている。


「では、ついに七つ星家の秘密を教えるときが来たというわけじゃ」


 おっ!


「付いてきなさい」


 二人は蔵の中に入っていった。

 最初に怪異録を見つけたこの蔵にやっぱり秘密があるんだ。


「あ、お父さんは来ちゃだめよ」


 母さんが振り返り、告げる。

 俺の後ろにこっそり付いてきていた父さんは、不満そうな声を漏らした。


「えぇ! そんなぁー!」


 秘密って気になるよね。


「これは七つ星家だけの伝統なの」


 だそうです。


「仕方ないなー」


 ごめんね、父さん。


―――――――――


「この蔵には、地下があってな」


 じいちゃんが床板が一部違う材質になっているところを外すと、はしごが出てきた。


「そんなところに……」


 地下室があったんだ!

 いつぞやの、ゾンビが来たときはそこに隠れていたのかな。


「降りてみなさい」


「うん……」


 地下室は暗いけど、案外片付いていた。

 定期的に掃除でもしてるのかな。

 そして、壁には本棚とそこに収まる大量の本。

 かなり昔のみたい。


「ここには代々我が家の人間が残した書物が収められているんじゃよ」


「へー」


 じゃあ、新聞記事で見たあんな事件やこんな事件について書かれた原本もあるのかな。


「明はなぜ七つ星家がこんな風に怪異を調査、記録しておるかわかるかの?」


 七つ星家の怪異調査……のわけ。

 それは……。


「わ、わからない……」


 というか、それを知るために七つ目の怪異を調べてたんだ。

 じいちゃんや母さんは答えを……。


「実はワシもよくわからないのじゃよ」


「私もよ、明」


「ええ!?」


 衝撃の告白だ。

 誰も知らなかったんだ。

 いや、先祖の誰かは知っていたのかもしれないけど。


「いつの間にか成り行きでそうなったんじゃないのかのぅ?」


 能天気に答えるじいちゃん。

 こんな普通じゃないことを成り行きで片付けるには、ちょっと強引じゃない?


「でも、今こうして私達が怪異に出会うことにははっきりとした目的もあるのよ」


「も、目的?」


 宇宙人や幽霊に会うことに目的なんかあるの?


「これは、この家なりの成人の儀式なのよ」


「成人の?」


「いつしかこの家には、七つの怪異と出会いその試練を乗り越えることが大人として認められる条件だと言われるようになったんじゃ」


 そうなんだ。


「でも、それって時代遅れじゃない?」


 現代で成人の儀式なんて、成人式しかしないよね。


「はっはっは! それはそうじゃな!」


「でも、せっかくだから続けようってのが私達の今の考え」


「そっか……」


 せっかくだから……か。

 うーん、俺も人のことは言えないけどいいかげんだなー。


「して、明には一つ尋ねたいことがある」


 じいちゃんは、急に笑い顔から真面目な顔になり、俺を見据えた。


「……なに?」


 今度こそ、重要な話の予感。


「この伝統、続けるべきだと思うかの?」


「えっ、それは……」


 いきなり聞かれて答えられる問題じゃないよ……。

 そんな俺の迷いを読み取ってか、母さんは言う。


「時間はたっぷりあるから、いつの日か答えを出してね」


 そう告げ、二人は梯子を昇っていった。

 俺も暗くて怖いこの部屋に取り残されるのは嫌なので、急いで付いて行く。


―――――――――


「はぁ……」


 一人自室でため息をつく。


 どうしようかなぁ。


「とりあえず、七つ目の怪異はこれで解決ってことでいいのか?」


 七つ星家が怪異を語り継ぐ理由は正確にはわからない。

 でも、理由の一つに成人の儀式があることがわかった。

 昔、日本では元服ってのがあって、その儀式をもって一人前の武士として認められたらしい。

 だから、似たようなもんなのかな。


 そして、この伝統を残すかどうか……か。


 おそらくまだ真剣に考えなくてもいいかもしれない。

 でも、いつか俺が結婚して子供ができたとき。

 こんなに危険なことに自分の子供を巻き込むのは……嫌だな。

 いくら家の伝統だからって、命の危険を冒してほしくない。

 母さんやじいちゃんはどうだったんだろう。

 自分の子供が死地に飛び込むのを黙って見ていたのかな。


「う~ん」


 それはないんじゃないかな。

 目の前で危ないことをしていたら止めるはず。

 ここは発想を変えよう。

 もしかすると、親が気づかないうちに怪異と出会っているのかも。

 俺だって、母さんに言われて怪異調査を始めたわけじゃない。

 七つ星の血を引く人間は、つい怪異に首を突っ込んでしまうとか?

 だとすると、止められるものじゃないのかも。


「ダメだ、わからん!」


 最後の最後に、とんでもない怪異が潜んでいた。

 怪異を残すこの七つ星という一族こそが怪異なのか!?


「……」


 俺は一旦頭を冷やすために、散歩に出た。

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