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 あのお言葉ですが佐倉先生、きょう私、ご覧の通り女装してるんですけど…


 おまけに、あなたのアシスタントは、こんなセーラー服など着てますでしょうか。普段。


 考えてみれば、さっきのコートさんも、(本物の)女の子だと思えばこそ、私に見せつけて…あいえ、この辺で。


 とにかく、ウチの先生のことですから、おそらく何か考え事をしながらの伝達だったのでしょうが、それでもせめて一言『なんて格好をしてるんだ』くらいは言って頂きたかったような気がするのは、気のせいでしょうか。


 我ながら変な言い回しですけどね。


 それにしても、なんたる洞察力。さすが推理小説も手がけるだけのことはある作家…って、関係あるんでしょうかね。これと。

 

 あるいは、毎日のように顔を合わせているだけに、先生には私だ絶佳と見破ることが出来たのかも知れません。


 それは、たとえば私の両親や友人の前で女装しても、同じく結果になるということでしょうか。う〜ん…


 まあ、あえて『カミングアウト』と共に私が、彼らの前で女装する予定は、いまのところありませんけどね。


 どのみち、これまでの緊張はどこへやら。いまの件によって、すっかり私は気が抜けてしまいました。


 おかげさまで帰路はリラックス。打って変わって、特に人目を気にすることなく、私は元来た道を戻り始めました。


 いわば『開き直って』です。


 では、これを機会に明日からも、ずっと女装姿で暮らすことにしましょうか。


 ふふっ、冗談です。冗談。

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