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 あ、イヤっ…なぁに、これっ…


 そのカウンターの目と鼻の先。ふと気になり立ち止まってみれば、この大きくも小さくもないガラスケースの中に、どこかで見たような形のモノが、しかも複数…


 ああ…凄い。どれも、なんて逞しいのかしら…


「実は、さっきから気になっとったんだが、常連さん…」


 どっきーん!!  


 あわわわわっ…はたと我に返ってみれば、新聞をカウンターに置き置き店主さんが、ジッと私を見ています。


「ははは、はいっ?」


 『常連…』って、やっぱりバレた!?


 その他、計2つの意味・・・・・でヒヤヒヤものの私です。


「…常連さんの男の子で、お嬢ちゃんによく似た感じの子がいてね。もしや姉妹とか、あるいは親戚とかかね」

 

 す、鋭いっ。さすがは、顔馴染みです。


 ただ、ここは頷く訳にもいかないので、


「い、いえ…私はひとりっ子ですし、このお店に来るのも初めてなので…」


 こう答えるしかなさそうです。


「そうかそうか、それは失礼したね。いやね、もしあの坊やさんと関係あるなら、伝えて欲しかったんでね。今月いっぱいでこの店をたたむことにした…ってね」


 な、なんですって。お店を…?


 しかも、今月いっぱいと言ったら、もうあと半月ほどしかありません。


「やめちゃうんですか、お店」


 ここへきて、ようやくカウンターの前に。お会計をしてもらいつつ、私は店主さんに聞き返しました。


「ああ。まあ、初めてっちゅうお客さんに言うのもなんだが、ワシも女房も、もうトシでな。なんで、田舎に引っ込んでのんびり暮らすことに決めたんだよ」


 そう語る店主さんの顔は、ちょっと寂しそうです。


「そうなんですか。じゃあ先生にも伝え…」


 …っと、いけないっ。つい口走りそうになっちゃいました。ひやひや。


「んじゃ、ささやかながら閉店記念だ。ひとつふたつタダで持ってっていいよ。あのガラスケースの中の性具」


 ふっ、と微笑む顔にも、同じく寂しさが…っとと、言っちゃダメッ。性具なんてっ…あ、私も言っちゃった。


「あいえ、そそその…ア、アレは結構です。お、お気遣いありがとうございます」


「ああ、そうなのかい。なんか興味ありげに見てたようじゃったからね」


 もちろん見てました…いえ、そんな見てません。とにかく、からかうつもりでも何でもない様子。ごく自然に微笑む店主さんでありますことよ。


「で、では…失礼します」


 ぺこりと一礼。もし先生のお使いがなくても、ちかぢか必ず『本来の姿』で、もう一度ここを訪れようと心に決めながら、私は店を出ました。


 ち、違いますっ。アレを貰いに…じゃありませんっ。

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