そして担がれたのは誰か?

清泪(せいな)

第1話 ラパナのベノサ

 大陸東部に位置するラパナ国は、遊牧民時代から受け継ぐ騎馬隊による武力により大陸全土に支配圏を伸ばす大国だ。

 その現国王ベノサは身内なれど容赦しない非情な豪傑で、ラパナの領地をこれまで広げたのは彼の手腕に他ならない。

 恐れ憎まれども憧れられるような人物ではないが、そんな彼も三人の息子には慕われていた。

 幼き頃から兵士として育て上げた三人の息子はそれぞれ騎士団をまとめ上げ、ラパナの栄光に貢献してきていた。


 そんな中。

 ベノサも人の子である。皆には隠しているが患った病が悪化してきていて、肉体を内側から蝕み始めていた。寿命、という事を意識し始めて抱く懸念が生まれた。

 ここまで築き上げてきたラパナの栄光を我が息子たちは受け継ぐことが出来るのだろうか。

 もし自分が亡くなった後ラパナが没落してしまったなら、と過る不安を拭えずにいた。


 そうして死の近づきを刻々と感じるに、ベノサは非情で豪傑な男らしくもなく王妃へと先の不安を吐露することになった。


「ああ、王よ。なんと悲しきことを。貴方が死んでしまうなどとても考えられません。ですが、その不安を解消したいというのであれば息子たちを試してみれば良いのです」


 瞳に涙を浮かべ王妃は俯いたり天を仰いだりと、吐露された悲しみをありったけの動きで表現する。


「試す? 力をか?」


 剣の稽古、騎馬の稽古などいつぶりからやっていないだろうか。まだ年端もいかぬ幼少時か。実戦こそがもっともなる修練と、十を過ぎた頃には三人の息子には戦場へと赴かせていた。


「いえいえ、三人の息子たちがどれほど貴方を慕っているかを試すのです」


「なるほど・・・・・・どういうことだ?」


「例えば、今の話を──いえ、将来貴方が死んでしまうことを三人それぞれに話します」


「いずれその必要はあるだろうが、改めて、それぞれに話すのか?」


「いえ、息子たちは貴方を慕うばかりに貴方を永遠の者と勘違いしております。私だってそうです。ですから、死ぬことを理解させる必要があります。そうして、息子たちには貴方の葬儀をどうするかと質問してくださいませ」


「葬儀?」


「そうです、葬儀です。息子たちは貴方を慕っておりますのでそれぞれ立派な葬儀を提案するでしょう。その上で貴方は誰の提案が将来を任せられるものか、この国の栄光をより輝かせるものになるのか、ご判断してくださいませ」


 ベノサは王妃の言葉に暫く黙って思案したのち、静かに頷いた。


「わかった、ではお前の言う通りにしてみよう」

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