第10話


 蓮はまた夢を見ていたようだ。


 カーテンの隙間から朝日が差し込み蓮の顔を照らす。


 蓮は天井を少しの間見つめた後、重い体を起こし準備をして事務所に降りた。


「おはようございます」


「おー、遊びに来たのか?」


 所長が茶化すように言った。


「いや、掃除だけしに来た」


「そうか、ありがとな!」


「俺、掃除好きだからいいよ!」


 蓮はそう言うと徐に掃除を始める。


 (アイビーいねーじゃん。まぁ仕事もあるし仕方ないか)


 しばらく掃除をしながらアイビーを待っていると蓮の電話が鳴った。


 アイビーだった。蓮は急いで電話に出た。


「はい」


「出てこい」


 アイビーはそれだけ言うと切った。


 (出るってどこに?)


 蓮はとりあえず外に出てみると、アイビーが事務所一階の駐車場で待っていた。


「住んでない」


「はい?」


「クリーニング店だよ!」


「えっ?もう分かったんですか?」


 アイビーの行動力に蓮は感心していた。


「正直お前でも調べれるけど、鈍臭そうだから行ってきた」


「うぅ、一言余計だけど、ありがとうございます」


「それで?今夜行くか?」


「もちろん!鍵はどうします?」


「自分が開ける」


「どうやって?」


「まぁ任せとけって」


 そして、二人は今夜商店街の入り口で待ち合わせをする事にした。


 その日の夜になり蓮は家を出た。


 事務所の窓には蓮を見つめる所長の姿が。



「お待たせしました!」


 蓮より先にアイビーは来ていた。


「よし、行くぞ!」


 心なしか楽しそうに見えるアイビー。

 蓮はマスクを二重にしてきていた。


「てかなんでマスクなんかしてんの?風邪?」


「変な臭いするんですよ」


「お前にはそれが何の臭いなのかわかんねーだろうな。臭うって事は誰かいるんだよ」


「怖い事言わないでくださいよ!」


「ハハハ、しょんべん漏らすなよ」


 アイビーが笑った。


「‥‥笑ったの初めて見ました」


 蓮は少し驚いていた。


「ゔゔん、そんな事はどうでもいーから行くぞ」


 アイビーは咳払いで誤魔化した。


「はい!」


 クリーニング店の前まで来ると、耳を澄ませる二人。


「どうします?入れます?」


「まぁ誰かいた所で、住人はいない訳だし、面白半分で入っちゃったーって事でいいだろ」


「そんな呑気な」

 

 そうこうしてる間に鍵を開けるアイビー。


「開いたぞ」


「はやっ!」


「お前から行け」


「は、はい‥‥」

 

 蓮がそーっとドアを開ける。


 (よかった、こうゆう時ってドアの音がギーっていったりするもんな)


 そんな事を考えながらライトで足元を照らす。


「空き家っていっても片付いてるし普通に住めそうじゃん」


「住もうとしないで下さい」


 二人は暗闇の中進んでいく。

 店舗の奥が住居スペースになっていた。


「臭い、残ってんな」


「ほら、臭うでしょ。って‥‥あれ?」


「なに?なんかあったか?」


「ここって‥‥」


 蓮は全身に鳥肌が立つのを感じた。

 

「すぐ出ましょう」


 そう言うと先に出てしまった蓮。


「おい、待てよ!」


 アイビーが後を追い、商店街の外まで出てきた蓮。


「ちょい、どうした?顔色わりーぞ」


 アイビーが心配そうに聞く。


「はぁ‥‥はぁ‥‥」


 息を荒くして屈む蓮は心臓が今にも飛び出そうだった。


「こい」


 アイビーは蓮の手を引っ張り、ある所に連れて行った。


「とりあえず落ち着け」


 そう言うと蓮を椅子に座らせる。アイビーは自分の家にひとまず連れてきたのだ。水を渡すと、一気に飲み干す蓮。


「アイビー、俺‥‥」


「何を見たんだ?」


 蓮が息を深く吸う。


「‥‥多分あそこ昔俺が住んでた家」


「は?」


 状況が飲み込めないアイビー。


「確信はないんだけど、薄っすら記憶に残ってる」


「それほんとか?」


「じゃないとあんなに鳥肌立つ事なんてないよ。あの部屋を見た瞬間ブワーって」


「もしかしてお前の親って誠とかいう名前か?」

 

「なんで知ってんの?」


「空き家か調べた時に最終の名義人の名前がそんなだった気がする」


「じゃあ絶対そうだ。どうして‥‥たまたま?」


「もう少し詳しく調べる必要があるな」


「頭痛いし」


「少し休んで帰れ」


 アイビーはそう言うと蓮に毛布をかけた。


 (‥‥ダメだ、あの臭いのせいで頭が回らない)


 蓮はいつの間にか眠りについてしまっていた。

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