第6話 

 

「んーよく寝た!」


 蓮は起きると、着替えて事務所に降りる。


「おはようございまーす」


 よく寝て機嫌の良い蓮は元気よく事務所のドアを開けて入った。


「若者は平気で休めてええのぅ」


 柴さんが独り言のように言う。


「おま、何日休んでんだよ!」


 アイビーが何やら怒っている。


「俺、休んでませんよ!」


「は?ここ三日ぐらい来なかったじゃねーかよ」


「えっ?」


「悪いな、あんまり気持ち良さそうに寝てたから起こさなかったんだよ」


 所長が話を割って謝ってきた。


「いくら気持ち良さそうに寝てるからって起こしてくれてもよかったのに!三日も寝続けるなんて異常だよ!」


「だから悪かったって」


 所長は鼻で笑っていた。


「まぁお前がいなかった所で困る事なんかないけどなぁ‥‥‥誰が掃除するんだよ!」


 アイビーが蓮に怒鳴ってきた。


「すいません」


 蓮はしょんぼりしながら仕方なく掃除を始めた。


 (俺、三日も寝てたんだ。なんか懐かしい夢見てたみたいだ)


「あー腰いてー」


 蓮は寝過ぎて腰が痛くなっていた。


「ちょっといいか?」


 所長が言ってきた。


「うん」


 部屋に入る蓮と所長。


「蓮、しばらく休め。小遣いやるから友達と遊んでこい」


「何言ってんの?」


「ここ最近依頼がめっきり減ってきてるから暇持て余すだろ?」


「でもアイビーは忙しそうじゃん。俺手伝うよ」


「お前じゃアイビーの足手纏いになるだけだ」


「酷いこと言うね」


「ごめんごめん。まぁそうゆう事だから、はい」


 そう言って蓮に数枚を握らす所長。


「いつまで遊んでたらいんだよ」


 そう呟きながらふてぶてしく部屋を出る蓮。


 (遊んでろって言ったって俺、友達一人もいねーよ!)


 蓮の中学時代の友達の殆どは高校に行っており、すっかり疎遠になっていた。


 (そうだ俺にはしないといけない事があったんだ)


 ある事を思いだした蓮はあのマンションに向かう。


 着いたのは対象の住むマンションだ。

 蓮は依頼人に聞きたい事があった。


 (こんな事おじさんにバレたら殺されるな)


 蓮は慎重に行動しようと、しばらく張り込む事にした。


 (あっ)


 出てきたのは対象で、肝心の依頼人の姿はなかった。


 (休日だから買い物ぐらい行くと思ってたのに)


 夜まで張り込むも、結局出てこなかった。

 

 (本当に一緒に住んでんのかな、まぁ顔も見た事ないし家から出てくるの待つしかないか)


 その日は諦めて帰る事にした蓮だったが、まだ気になる事があった。


 (あの場所行くの、怖いな)


 気になっているものの、あの何とも言えない気分になるのがトラウマになりかけていた。


 (あーもう!)


 苛立ちを隠せない蓮。


 暗い夜道を街灯頼りに自宅まで帰ると、所長がリビングで晩酌をしていた。


「お帰り、遊んできたか?」


「うん」


 少し拗ねたように言う蓮。


「なんだ?反抗期か?」


 所長はそう言いながら微笑む。


「寝る、おやすみ!」


 それだけ言い部屋に入る蓮。

 

 バタン。


 (態度悪かったかな。まぁいいや)


 蓮はあの場所に行ってから変な夢をよく見るようになっていた。施設の人に聞いた話では両親は火事で亡くなったらしく奇跡的に蓮は助かったのだと。


 そのため小さい頃の写真が一つもない。

 もちろん両親の写真も。

 蓮は記憶の中でしか顔が分からないのだ。


 (明日は朝から張り込みだ)


 今の蓮には時間がたっぷりある。

 その為、明日に備えて寝る事にした。

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