第2話 


「おはようございます」


 蓮が事務所に来た時にはお昼を回っていた。


「お前どうせ夜更かしばっかりして朝起きれねんだろ、もうこんな時間だぞ」


 アイビーは言った。


「俺、夜更かしなんかしてませんよ」


 蓮は否定する。


「まぁいいわ、喉乾いた」


「作ってきますよ」


 蓮は不満そうにミルクティーを作り、アイビーの机に運ぶ。


「最近めっきり依頼が減ったのぅ」


 お茶を飲みながら新聞を読む柴さん。


「今やそこらじゅうに探偵事務所なんてありますからね、うちみたいな小さいところにはよっぽどの事がない限り来ないでしょうね」


 柴さんの横で所長が言った。


 その隣ではアイビーと蓮が出る準備をしている。


「これバラバラじゃん」


 地図のマークを見てアイビーは言った。


「そうなんですよ、見失う時に限っていつも通らない道通るんですよ」


「まぁいい、とにかく行くぞ」


 アイビーはそう言うと地図をリュックに入れた。

 

「はい!」


「行ってきます」


 アイビーがそう言うと、蓮も続けて言う。


「行ってきます」


 不安そうに出る蓮を見送る所長と柴さん。

 

「そう言えばアイビーもうちに来た頃は蓮と同じくらいだったかのぅ」


「そうですね、頼もしくなったものです」


 蓮とアイビーは予定の場所に到着すると対象の待ち伏せを始めた。


 そして、対象はすぐに現れた。


「あっ来ました」


「あの人?」


「はい」


 そこには高そうなスーツを着た30代前半くらいのサラリーマン風の男が勤務先から出てくる姿が。


「行け、こっちは先回りして待機する」


 アイビーは対象の顔を確認すると、どこかへ行ってしまった。


 蓮はいつも通り尾行を始める。

 尾行が成功する日は毎回自宅に帰るだけの対象だが、失敗する日は必ず途中知らない道に入って消える。


 (よし、今のところはいつものルートだ)


 蓮は浮気調査の事も忘れて、何事もなく自宅に帰ってくれる事を願っていた。


 途中でアイビーと合流する。


「いつものルートみたいでよかったです」


「なんもよくねーよ、浮気の証拠集まらねーじゃんかよ。今回の依頼は証拠を見つけるまで終わらねんだよ」


 ホッとする蓮とは対照にイラつくアイビー。


「そうなんですか?そんなお金をかけるほど確信があるんですかね?」


「だろうな、だから真っ直ぐ帰られちゃ困るんだよな」


「なるほど。あー帰っちゃいましたね」


「チッ」


 アイビーが舌打ちする。


「‥‥俺らも帰りましょうか」


 対象が自宅に入るのを確認して二人も事務所に戻る事にする。


「あの、一つ聞きたいんですけど‥‥」


 蓮は言いづらそうに言った。


「なに?」


「アイビーはなんでラットで働こうと思ったんですか?」


「急になんだよ」


「いや、もっと大きい所とか待遇がいい所とかありそうなのに、なんでかなって思って」


「‥‥なんとなくだよ」


「なんとなくで働けるほど楽じゃないですよね。一人の仕事量多いし」


「なんでもいいじゃんかよ!ほっとけ!」


 苛つきを隠せないアイビーは並んで歩いていた蓮を抜かして前を歩いた。


 二人が事務所に戻ると、所長は気になっていたようで一言目に聞いてきた。


「どうだった?!」

 


「どうって言われても」


 返事に困りアイビーの顔を見る蓮。


「とくに尾行に気づかれてるとか、こいつの尾行が下手とかは感じなかったですよ。まぁしばらくは様子見ですね」


 アイビーが蓮の代わりに答える。


「そうか、お疲れ様。明日は他の依頼が入ったからそっちに行ってくれるか?」


 所長がアイビーに言った。


「分かりました」


 そして、次は蓮に言った。


「蓮、引き続き頼んだぞ」


「分かった」


 (この仕事楽だと思ってたのになぁ、地味に体力いるし、俺に出来る事って尾行ぐらいしかないし。まぁそれも完璧ではないけど)


 蓮の将来の夢は遊んで暮らす事だった。その為に高校も行かず働く事にした。


 蓮は帰る前に事務所の掃除を始めた。

 事務所はビルの二階で自宅が三階にある。

 一階部分は駐車場になっている。

 

「蓮、そろそろ帰れよー」


 柴さんがそう言いながら帰っていく。


「はい、お疲れ様です!」


 しばらくするとアイビーも帰る準備をして入り口に立っている。


「今日はありがとうございました」


 蓮はそう言いながら軽く会釈をした。


「しっかりやれよ」


 そう言い残しアイビーも帰って行った。


 その後も掃除を続けていると蓮はアイビーの机で何かを見つけた。

 それはただの石に見えるが、まるで宝物のように飾っていたのだ。


 (変わった物飾ってんな)


 蓮はアイビーの趣味がよく分からなかった。


「いつも助かるよ」


 部屋から出てきた所長が言った。


「一応下っ端だからな!」


「ハハハ、そうだな。もう帰れ、俺はもう少し仕事して帰るから」


「うん、じゃあお先に!」

 

 蓮が帰った後、所長は静まり返った部屋で引き出しから写真を出すと、それを一人見つめていた。


 そこには三人の男女が写っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る