第12-2話 決戦、魔軍王(前編)

 

「かつてない規模の襲撃だと……!」


 私とアイナの誕生パーティの最中、突如鳴り響いた魔軍の襲撃を知らせる警告……。


 前回の襲撃を撃退してからさほど時がたっておらず、魔軍の展開状況を解析すると本格攻勢はまだしばらく先だと想定していたのだが……甘かったようだ。


 防衛ラインの砦に勤務する総参謀長の報告が続く。


『はい! 魔物の中にグレイトドラゴンが混ざっています!』

『帝都正面で見た魔軍の主力に間違いありません!』


『ここ1か月ほど、魔軍の主力は帝都周辺に展開し、占領済み地方の支配に注力しているとの情報でしたが……どうやら陽動だったようです』


『サーラ嬢の助力も得て、第1陣は撃退しましたが、明日の朝には本格攻勢があるかと……防衛計画の立案はお任せください!』


「助かる! こちらも私の権限で動員令を発令する!」

「回転床移動システムを使い、明日の朝には展開を終えるから、軍備的な指示は総参謀長から頼む!」


『承知しました!』


 私は魔導通信機のチャンネルを切り替えると関係各所に指示を出す。


 帝都から避難した冒険者ギルド、カイナー地方で再編した帝国軍の残戦力……兵站をサポートしてくれる住民有志。

 想定よりも侵攻は早かったが、準備は十分にできている。


 カイナー地方は、急速に迎撃準備を整えつつあった。


「カールさん……」


 と、ドレス姿のまま、不安そうな表情を浮かべるアイナの姿が目に入る。


「大丈夫……備えは出来ている」

「ただ、どうしても強力な個体が出てくる可能性がある……その対処に、どうしても私たちの伍式と漆式が必要になるんだ……一緒に来てくれるか、アイナ?」


「!! はいっ! もちろんですっ!」

「カールさんとアイナのコンビは世界最強ですっ!」


 なぜだろうか、一瞬口に出すことをためらった私の言葉に、アイナが力強く頷く。


 ふんすと頼もしいポーズをとるアイナに、私も安心するのだが……胸の奥から妙な焦燥感がこみあげてくる。


 ぎゅっ……


「わふっ!? か、カールさん?」


 次の瞬間、私はアイナを抱きしめていた。

 心に沸きあがった不吉な予感を打ち消すように。



 ***  ***


「敵第2波、後退します!」


「ふう、ここまではなんとか凌げているか……」


 総参謀長の報告通り、カイナー地方防衛ラインに取りついていた魔物の群れが、大量の死骸を残して潮が引くように後退していく。

 翌日早朝……黎明とともに始まった魔軍の本格攻勢を、私達はなんとか撃退し続けていた。


 特に大きな戦果を挙げているのはダメージ床陸式だ。

 生産コストが安いこともあり、防衛部隊に参加してくれた帝国軍兵士、冒険者すべてが装備できるぐらいに大量生産を実施。


 防衛ラインの地中に掘られた地下通路を使い、ゲリラ的に魔軍を襲撃。

 ダメージ床のスパークをまとい、逃げても追尾してくる陸式に混乱する魔物の軍勢を、ダメージ床参式の地雷原やダメージ床零式に誘導し……次々に撃破していた。


 これは、ダメージ床の性能だけではなく、卓越した総参謀長の戦術眼が大きい……帝国軍の頭脳と呼ばれた才覚は、伊達ではないようだ。


「負傷者がいる部隊は直ちに交代せよ……補給物資は第18地下通路に集積済」


 的確な指示を飛ばす総参謀長をはじめとした防衛部隊司令部。


 流石だ……軍事面では私の出番はなさそうだ。

 頼もしい働きをしてくれる彼らに、安堵のため息を漏らしていると。


「第14ダメージ床零式、魔導回路中破!」


 ダメージ床零式が破損したとの報告が入る。


 く……開戦からすでに半日以上……どうしても機材の被害は免れないか。

 特に魔軍の正面攻撃にさらされていたエリアである。


「私とフリードで交換に行く!」

「隣接エリアの防衛部隊は、残存する敵に注意!」


 私は指示を飛ばしながら指令室を飛び出すと、1階に待機させている馬車のもとに走る。

 馬車には各種ダメージ床の補修資材が積んであるのだ。


「それと……アイナ、サーラ!」


『はいっ! 任せてくださいっ! カールさん!』


『にはは、魔物の群れなどがいしゅういっしょくだ、落ち着いてこうかんするがよいぞ』


 魔導通信機から彼女たちの元気な応答が聞こえる。


 そう、ダメージ床と共に防衛ラインを守る私たちの切り札は……大空を支配するふたりの少女なのだ。

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