第11-3話 ダメージ床整備領主と収穫祭(後編)

 

「にはは! 回転床を使ったすぴーどぶーすと雪玉シュートであるっ!」


「ぶべらっ!?」


 ワールドクラスの雪玉剛速球を受けたフリードがあっさりと吹き飛ばされる。

 カイナー山脈から運んできた残雪を使ってフィールドを作り、その中で行われている雪合戦ワールドチャンピオンシップ。


 昨日から始まったカイナー地方の春告祭兼収穫祭はさらなる盛り上がりを見せていた。


 ……フリードのヤツ、この後ステージで演奏するのに大丈夫だろうか?


 朝の定例業務を終えた私は、街の視察に出ていた。


 おお……街の中央広場に設営された演芸会のステージの周りには、まだ午前中だというのにすでに大勢の観客が集まっている。

 やはりみんなも午後の演芸会を楽しみにしてくれているようだ。


 私は審査員長として最終の打ち合わせをするべく、ステージ裏へ向かうのだった。



 ***  ***


 晴天の午後……中央広場の特設ステージは数万に及ぶ観客の熱気とアルラウネの謎花粉の効果で、異様な盛り上がりを見せていた。



 ふむ……やはり帝都サーカスの火の輪潜りは妙技だな……。

 上級モンスターであるはずのサーベルタイガーを調教し、芸をさせるスキルに感心する。



 ……おっと、次はアイナの番か……審査員長として贔屓してはいかん。

 冷静に評価しないとな……。


 私はそう考えているのだが……ほおが緩むのを抑えきれない。



 わあああああっっ!



 万雷の拍手に迎えられ、アイナとジャズバンドたちが入ってくる。


「ほぅ……」


 思わず感嘆のため息が漏れる。


 ワイン造りの時に着ていた赤いスカートのディアンドルをベースに、背中にはダメージ床・アイナカスタム極改二を装備……発動時に現れる一対の青白い羽根が、天使の羽根のようにふわりと広がる……。


 ビッグバンド構成のジャズバンドを従えたアイナは、ステージを照らす照明にその栗毛をキラキラときらめかせながら、歌い始めた。


 …………彼女の一挙手一投足に目を奪われる。


 いつも一生懸命な可愛い私の犬耳メイド……最初は可愛らしい彼女を、子犬を可愛がるような気持ちで見ていたと思う。


 だが時を重ねていくにつれ……相性の良い彼女の魔力と、波長の合う感覚……ノリノリで繰り広げられる知能指数の低い会話。


 何気ない日々のやり取りが、彼女に対する愛情を育てていたことに、ふと私は気付かされたのだった。



 わあああああっっ!



 アイナがぴょこんと一礼し……盛大な歓声が彼女に送られる。

 私は目尻に浮かんだ涙をそっとぬぐい、あらん限りの拍手を彼女に送るのだった。



 ***  ***


「ううう~っ! 惜しくも準優勝でしたぁ!」

「アイナの食堂食べ放題券がっ!!」


 そろそろ太陽が西の空に沈むころ、演芸大会を終えたアイナはカールさんと一緒に街を歩いています。


「ふふ……歌はアイナが一番だったと思うが……あの手品師集団は凄かったな!」


 カールさんは優しく微笑むと、アイナの頭をぽんぽんしてくれます。

 あぅ……カールさんに頭を撫でられるたび、アイナの心はぽかぽかしてしまうのです。


 そうですっ!


 雑誌でしか見たことのない、帝都イリュージョンのエースメンバーがウチに来ているとは思いませんでした……。

 理解を超えたギャラクシー級の妙技……あれではアイナが負けたのも仕方ありません……。


「そうだな……アイナには私のスペシャルスイーツ無制限リクエスト券をプレゼントしよう……食べ過ぎるなよ?」


 アイナが悔しそうな表情をしていることを悟ってくれたのか、カールさんが超素敵な提案をしてくれます。

 思わずアイナも興奮して……耳と尻尾がずばーんと逆立ってしまいました。


 そんなアイナを見て愉快そうに笑うカールさん……えへへ、カールさんの優しい表情、大好きですっ!

 そうしてアイナたちは、この後街の郊外で行われる花火大会の会場に歩いていくのでした。



 ***  ***



 ど~~~ん!

 パパパパッ!



 キラキラの星空に負けないくらい、赤青黄色……色とりどりのお花が夜空に咲いていきます。


 サーラちゃんがどらごんもーど?で夜空に花火を撒いてくれてるみたいです。


 とってもとってもキレイですっ!!


「美しいな……カイナー地方の夜空は本当に美しい」

「本当にここに来てよかった……」


 感慨深そうに発せられたカールさんの言葉に、思わず横を向きます。


 花火の光に照らされたカッコいい横顔は本当に満足そうで……思わずアイナの心臓がどきりと高鳴ります。


「それに……アイナ、キミに会えたことが最高のご褒美だな」


 !!

 はううううううっっ!


 いきなりカールさんてば反則だっぺ!


 不意打ち気味にかけられた優しい声に、アイナの顔が真っ赤になります。

 身体じゅうを駆け巡るドキドキがさらに熱を持って……心の奥がキュンキュンする……これが恋心ってやつでしょうか!!



 まだまだ口に出すのは恥ずかしいので……そっとカールさんの方に身体をよせると……。


 ぎゅっ……


 カールさんの大きな掌が、アイナの肩を抱いてくれます。

 えへへ、あったかくて幸せだぁ……。


 アイナとカールさんは最後の花火が打ちあがるまで、ずっと二人で夜空を見上げるのでした。

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