第9-4話 第一次カイナー地方防衛戦(中編)

 

「ひゃああああああっ!! 防衛ラインまで馬車で2日かかるから、どうやって急ぐのかと思っていたらっ」

「カールさん、なんですかこれえええええっ!?」


「ふむ、これか? 高速移動用の回転床だ!!」


「ちょっと回転速すぎませんかあああっ!?」


 くるくると回転しながら、地平線の向こうへ運ばれていく私たち。


 足元に敷かれた矢印の描かれた石造りの床……回転床が、地平線の果てまで続いている。


 これは試作品の”高速移動用回転床β”……地脈から湧きだす魔力を使い、移動方向を一定にした回転床を次々と起動、一直線に高速移動するための施設である。


 砦に設置した回転床迷宮の遊戯施設は、コイツの先行量産品だったのだ。


 欠点としては、回転床の性質上身体が回ってしまうので、慣れないと目が回ることだが。


「アイナ、回転方向を見るんだ! そうすると酔いにくくなるぞ!」


「カールさぁぁぁん! そんなこと言われてもっ……う”っ、さっき食べた洋梨のタルトが……」


 通常の馬車なら2日程度かかるところ、僅か2時間ほどで防衛ラインの砦へ到着するのだった。



 ***  ***


「な……! アレは、”魔物”だとっ!?」


 到着した防衛ラインの砦……1階にいた観光客は、回転床のスイッチを切り、防御フィールドを張ったうえで2階に避難してもらっている。


 その様子を確認した後、3階のダメージ床コントロールルームに移動した私たち。


 監視用の窓からは、ダメージ床零式と、”迷いの森”が設置されたカイナー地方防衛ラインが一望できる。


 幸い、敵の侵入は許していない。


 展開されたダメージ床零式の青白いフィールドは、的確に敵を屠っている。

 それは良いのだが、出現している敵が、”魔物”なのである。


 ここカイナー地方に出没する”モンスター”と言えば、エビルオークなどの亜人型、エビルバッファローなどの獣型が中心……たまにドラゴンの下位種が出現するくらいだ。


 だが、現在出現しているのは。


 巨大なアリの尾の部分にドクロが付き、大きな鎌を振り回す異形の蟲。

 獅子の身体にヤギの頭を持つ悪魔の使いキマイラ。


 いずれも、”こちらの自然界”には存在しない生物……魔軍界にのみ生息する、”魔物”と呼ばれる連中の群れだった。


「おうししょー! なかなか愉快なことになっているぞ!」


「この気配は……ついに彼、”リンゲン”が動いたのかもしれません」


 今日は初等部の社会見学で、子供たちを砦に連れてきていたサーラとアルラウネだ。

 どうやら、豊富な魔力を使い、零式を手動制御しているらしい。


 そのおかげで、今まで被害が出ていないのか、助かった。


 それより、その”リンゲン”というのは……アルラウネが口に出した気になる言葉を、彼女に確認しようとした瞬間。


「むむっ! まずい、大物だぞ!」


 サーラが警告の声を上げる。


「馬鹿な!! 邪神スキュラが二体だとっ!?」


 バキバキと木々を踏みつぶしながら現れたのは、複数の触手と犬の頭から構成される下半身と、半獣人の上半身からなる巨大な魔物……。


 体長10メートルに迫らんとする伝説の邪神スキュラだった。


 帝国の歴史上、ほとんど出現報告の無いSランクの魔物がなぜこんな辺境に!?


 いくら零式でも、アイツに対しては荷が重い……事実、ダメージ床のスパークは奴にキズを与えているが、奴が止まる気配はない。


「やつのひふを破るには、一点こうげきが重要だぞ……一体はわらわとアルラウネに任せるがが良い」

「ししょーとアイナはもう一体を! 伍式をまとったアイナなら、やつにつうじるだろう……って、なんでアイナは目を回しているのだ?」


 ここにサーラがいてくれて助かった……頼もしいことを言ってくれるサーラに、奴を迎撃する覚悟が固まる。


 さらに改良を加えた”ダメージ床伍式・アイナカスタム極”ならば……アイナの調子は大丈夫だろうか?

 先ほどまで目を回してふらふらしていたアイナを気遣い、そちらに視線をやるが……。


「スプラッシュしてきたので大丈夫ですっ! ……うっぷ。 この怒りはあいつにぶつけますっ!」


 まだ少し気分が悪そうだが、気力は十分なようだ。


「アイナ、”ダメージ床伍式・アイナカスタム極”を使うぞ!」

「私の”ダメージ床伍式・カールサインド”と連動するんだっ!」


「らじゃーですっ!」


 お互いの伍式の装備状況を確認……ダメージ床の発動状態を連動モードにすると、私たちは左翼に出現したスキュラのもとに走った。



 ***  ***


 ウオオオオオオオンンッ!!


 私とアイナがスキュラのもとに到着したとき、奴は迷宮の森を力づくで突破した所だった。


 森の地面に埋め込まれた回転床により、何度か零式のスパーク部分に接触していたはずだが、下半身の触手と犬の頭を何本か失いながらも、奴は健在だった。


 それどころか、触手が再生し始めている。


 アレが、スキュラ族の再生能力か……全盛期のカイナーラインのように、零式を市松模様に何重にも配置し、そのエリアを通り抜けるだけで大ダメージを与える構成が出来ていれば、奴を倒せたかもしれないが、機材の不足で一ラインだけの配置となっている我が防衛ラインでは、これが限界か……。


「よし、行くぞアイナ! 合体攻撃だ!!」


「はいっ!!」


 小さいニンゲンどもが何をしようとしているのか……奴の上半身を構成する青白い獣人の目が、そう語っている気がする。


 カイナー地方の最終防衛ライン……私とアイナの熱い戦いが始まろうとしていた。

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