第6-2話 ダメージ床整備領主、帝都に呼び出される

 

 気分よく屋敷に戻ってきた私たちを襲った衝撃の出来事。


 帝都から届いた一通の書状が、私たちに大きな波乱を起こす。

 そこに記載されていた内容はこうだ。



 ”カイナー地方領主であるカール・バウマンは、中央政府の管理が行き届かないことを利用して、不正な農産物取引で私腹を肥やすだけでなく、幼い獣人と幼女を側室として囲っており社会通念上許される事ではない”


 ”ついては彼カール・バウマンの不正を追及するため、査問会を開催するものとする。転移の羽根を支給するので可及的速やかに出頭の事”


 ”なお、帝国法典にのっとり、証人を5人までつけることを認める”



「……ふざけている! なんだこれは!」


 文面を読んだ瞬間、カッと私の頭に血が上る。


 私はカイナー地方を治めるうえで、断じて不正な事はしていない。


 農地の開墾や、住宅地の開拓には私が特許を持っている”ダメージ床”関係の技術を使っているだけだし、自由な土地開発は領主に認められた権利である。

 中央は次々に結果を出す私を不正だと断定したのか……。


 いや、この”獣人と幼女を側室として囲い”の部分……いやらしいゴシップをでっちあげ、人を社会的に抹殺するやり方……背後にクリストフがいるのは間違いない。


 ちなみに、アイナもサーラも帝国住民登録上は成人扱いであり、彼女たちを働かせることは違法でも何でもない。

(サーラの手続きは少し複雑だったが、辺境では今まで知られていなかった部族が発見される事がたびたびあり、彼らを住民登録するための特例を使わせてもらった)



 おそらく我がカイナー地方が、奴が制定したと思われる”帝都から逃げ出す住人への課税”……コイツを補填する特典付きの移住キャンペーンを張っていることに対する嫌がらせだろう。


 帝国は地方自治を基本姿勢としており、各地域は煽り煽られの健全?な競争の下で発展してきた……違法な事をやっている訳ではないのに、確実に私怨だな……。


 どちらかと言うと、移住を希望する住人に税を課す方が違法である。



「卑劣なクリストフ卿らしいやり方ですね……それで兄さん、やっぱり帝都に行くんですか?」


「……こればかりは仕方ない。 正式な宮廷裁判所の書状のようだし、皇帝陛下のサインまであってはな」


 地方領主とはいえ、私も帝国政府の一員である。

 公式な要請には従う義務がある。



「わう~~~~っ!! なんですかこのいじわるっ! 許せません!」


「証人ってことは、私がカールさんを弁護できるんですよねっ! 側室なんかにされていないこと、証明しますっ!」


「……って、”そくしつ”って何ですか?」


 書状での一方的な決めつけに、怒りをあらわにするアイナ。

 いまいち詳しい内容を理解していない様子に思わずなごんでしまう。


「ほお~う、いだいな聖獣であるわらわを人間の側室よばわりとな……これは懲らしめてやらんとな……!」


 それにサーラも……怒りで口の端から炎が漏れている。


「ふたりとも……ありがとう」


 自分がけなされた事に対する怒りもあるだろうが、私のために怒ってくれている……その事実が嬉しかった。


 このふたりは私の屋敷で働くメイドとして正式な雇用契約を結んでいるし、公文書にも残してある。

 このような言いがかり、いくらでもはねのけられるはずだ。


「ほっほっほ……村の恩人のカール様にこの仕打ち……ワシも証人として協力させていただきましょうぞ」


「本当に許せないね! アタシも住人代表として証言台に立ってやるよ!!」


 村長とフェリスおばさんも協力してくれるようだ……本当にありがたい。



「バウマン家の人間は証人にならない方がよさそうですね……兄さん、村の運営は僕がなんとかしますから、行ってきてください」


「フリード……すまん、恩に着る」


 私は、色々な人たちが協力してくれることに感動しながら、出頭の準備を整えるのだった。



 査問会が終われば自由時間もあるだろう……せっかくだからアイナたちに帝都を案内してやるか。


「アイナ、サーラ……査問会の後になるが、帝都で一番のスイーツの店に連れて行ってやろう。

 お前たちは帝国スイーツの神髄を見ることになるのだ」


「カールさん、マジですかっ! うおおおお、このアイナ、全力でカールさんをサポートしますっ!」


「ふっ……にんげんどもにわらわの舌をまんぞくさせられるかな……じゅるり」


 面倒事に付き合わせるんだ……少しくらい楽しいこともないとな。



 それに、こちらには様々な公文書と確たる証拠がある。


 これがあれば単なる言いがかりなど……あくまで公式な査問会だ。

 無実はすぐ証明できるだろう……。


 クリストフの狂気を見誤っていた私は、この時点ではそう考えていた。

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