第4-1話 ダメージ床整備領主、観光旅行に出る

 

「よし……順調だな」


 1か月後、私は村長から提出された月間報告書を読み、満足の吐息を漏らしていた。


 報告書によると、まずダメージ床壱式により、農地や村へのモンスターの侵入が激減。


 回収したドロップアイテムにより、先月は30万センドの副収入……。


 害虫が減少したことにより、ブドウの収穫量がアップ、シェリー酒の初回出荷分は、帝都や周辺の街で評判になっており、次回生産分の予約を含めて2000万センドの収入……。


 この臨時収入と、帝国からの給付金を使い、村内の道を石畳で舗装……全世帯に水道も整備した。


 ふふふ、まずインフラ整備が重要なのだ……これにより物流が促進され、清潔な水が使えるようになり病気も減った(もともと村の住人は頑丈だが)


 ”カイナー地方改造計画”は順調のようだ……。


 季節はそろそろ春から初夏に切り替わる……思い起こせば、ここに着任してからしばらく働きづめだったな……ここでまとまった休暇を取っても罰は当たらないだろう……。


 私は村長をはじめ、私の赴任に当たって設置したカイナー村行政府の職員たちと日程を調整すると、7日間の休暇を確保したのである。



 ***  ***


「うわああああっ、きれいな所ですね~! アイナ、ここまで来るの初めてですっ!」


「ふふふ……山脈に近づくほど地脈が濃く……調べがいがあります」


 美しい周りの風景を見て、アイナが歓声を、フリードが歓喜?の声を上げている。


 ここはカイナー村から馬車で2日ほど移動したカイナー山脈のふもと……目の前には山頂に雪を頂いた霊峰と、うっそうと茂る広葉樹の森が見える。


 そう! わたしがここに来た目的は……のんびりキャンプとフィールドワークを楽しむためであるっ!


 フィールドワークとは、研究者や技術者が現地に赴き、現地の風土や環境を確認することであるが……私は領主として、この地方の事をもっと知る必要がある!


 全身をくまなく覆う冒険着とハンマーと網……私はがっつりと地質調査をするつもりだった。


「はは……兄さん、本当は地質学者志望でしたっけ」


 そう、家の事もあり……2番目に興味があったダメージ床整備士になった私だが、本当は地質学者になりたかったのだ……伝説の鉱物ミスリル銀にオリハルコン……。


 超希少金属が帝国内で取れるのか……魔導技術が進んだ現在では注目されないが、これは男のロマンであろう!


「……おお! あそこの岩肌……まさかエーテルの結晶が含まれているのかっ!?」


 さっそく魅惑の地層を発見した私は、一目散にそこへ向かった。

 一風変わった私たちの休暇が始まろうとしていた。



 ***  ***


「カールさんは思う存分発掘を楽しんでくださいっ!」

「その間にアイナは野営の準備を!」


「まずは薪割り……てやー! せいっ!」


 ガンッ! バキイッ!


「しゅ、手刀で割るんだ……凄いね」


「はいっ! この方が木の繊維が細かく割れますからっ! よく燃えるんですよ」


「お、おう」



 太古の地層が露出した岩肌……そのふもとを今夜のキャンプ地と決めると、発掘にいそしむ私に代わり、モンスター除けにダメージ床を設置した後、ふたつのテントを設営するフリード。


 パワフルメイドのアイナはもっぱら薪割り、水汲みなどの力仕事だ。


「ふむ……それにしてもこの山脈の地層はエーテルの結晶が濃い……地脈から沢山の魔力が取れるのも納得だな」


「これならもしかして伝説の金属も……」


 私が発掘の成果に大満足するころ、すっかりとキャンプの準備が完成していた。



 ***  ***


「はいっ! カールさん、アイナ特製スパイシーチキンですっ!」


「(この鳥、さっきアイナが捕まえてた極彩色の鳥か? チキンとは……?)……む、美味い!」


「えへへ、クミンペーストがアクセントになってるんですっ!」


「クラムチャウダーができましたよ~」


「(ああ、胃に優しい味だ……)ふぅ……」


 満天の星空の下、石で組んだかまどを囲みながらの楽しいキャンプ飯。


 がつん! とスパイシーなアイナのワイルド料理には辛口のシェリー酒がよく合う。

 アラサー胃へのダメージは、フリード作のクラムチャウダーが優しく癒してくれる……。


 なんでこう野外で食う飯と酒はこんなにも美味いんだろうか……。

 帝都では長らく味わえなかった最高の食事を私は堪能していた。


 お腹が一杯になったのか、くうぅ~っと思いっきり伸びをしながら、アイナが楽しそうに話し出す。


「そういえば……フェリスさんから読んでもらった本に書いてあったんですが、太古の昔……このカイナー山脈に伝説のファイヤードラゴンが封じられているそうです」


「どこかの山の中に、ドラゴンを封じた祭壇があるって聞きました!」


「わふわふ~ドラゴンって、どんな味がするんでしょうね~?」


 いや、食うなよ……ただ、その伝承は私も聞いたことがある……中世と呼ばれる時代、大規模な侵攻が魔軍界からあったが、その際にドラゴンが辺境に封じられたとか……。


 ふむ……ロマンだな。


「せっかくだし、明日はフィールドワークを兼ねてソイツを調査してみるか」


「はいっ! アイナ、面白そうですっ!」


 なにか痕跡でも見つかれば、学会誌に載るかもしれない……。


 私はレジャーを兼ねた明日の探索に、思いをはせるのだった。

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