第3-1話 ダメージ床整備領主、カイナー村グルメを楽しむ

 

「”帝都を囲うダメージ床の7割を撤去”……か、おーおーやってくれるなクリストフ……」


 帝都から送られてくる報告書に目を通しながら、私はすっかり呆れていた。


 クリストフが言うには、”ダメージ床”が動作しているところを見たことが無いからとの事だが、そんなもの我ら旧ダメージ床整備局が夜明け前にモンスターの残骸を撤去していたからに決まっているだろう。


 インフラの仕事は、臣民の目に付かないところでスマートにこなす……これが私たちのモットーだったのだ。


「ふむ……それなら好都合だな……撤去された”ダメージ床”の部品は、こちらで買い取るとしようか」


「カール兄さん、了解です……!」


「帝都の周囲に設置されているのは拠点防衛用の”零式”……今後も色々使えそうですしね!」


 まったくだ……私は帝都の本家に連絡すると、撤去された”ダメージ床”の部品を大量に買い付けるのだった。



 ***  ***


「ふんふんふ~ん、まずは村特産のベーコンをヤギの乳から作った特製バターで炒めて……♪」


 じゅう……!


 魔導調理器で十分に熱せられたフライパンから、香ばしいニオイと美味しそうな音がする。


「そこに牛乳と卵黄で作ったソースを混ぜ……コショウを一つまみ……」


 ふわり……半熟になった卵黄と、とろけたチーズが、魅惑のとろとろを作り上げる……!


「さあ、仕上げ……アイナちゃん、パスタは茹で上がったかな?」


「わふわふ~、すいませぇん~~! 茹で過ぎましたぁ!」


 力いっぱい鍋から取り出されたパスタの山が、大きなプライパンの中に投入され、フリードの超人的カバースキルによりなんとか私たちの昼食が完成したのだった。



 ***  ***


「はふはふ~、もちもちスパゲッティもこれはこれで美味しい~~♪」


「ははは、やはりアイナはおいしそうに飯を食っている姿が似合うな……」


「ですね!」


 昼食調理過程でひと騒動あったが、最終的に美味しくできたようだ……幸せそうにパスタを頬張るアイナを見ていると、こちらまで楽しくなってくる。


 ちなみに今日のメニューはカルボナーラにわかめのスープ……海や山の恵み、酪農も盛んなカイナー地方産食品100%の昼食である。


「それにしても、このヤギミルクのバターとベーコンのうまみは絶品ですね……風土と餌がいいんでしょうね!」


 可憐な金髪をハーフアップにし、ひよこさんエプロンまでしているフリードは美少女に見えるが男だ。

 帝都時代、女性に間違えられ月に一度はラブレターを貰っていた経歴は伊達ではない。


 更に料理と裁縫などの細かい作業も得意と女子力まで高い……。


「はうう……それにしてもフリードさんお料理上手ですぅ……お掃除も丁寧だし……」


「やべぇ! アイナ、メイドとしてすべての面で負けてるっ!?」


 ほくほく顔から一転、メイドスキルがフリードに劣っていることに気づき、ズガーンと衝撃を受けるアイナ。


 そのもふもふの耳がしゅんと垂れてしまうが……。



「気にするなアイナ……強風で折れた木を片手でどけたり……井戸の詰まりを掘って直してくれたり……キミがいてくれてすごく助かっているよ」


「それ、メイドじゃなくて業者の仕事じゃないですかっ!?」


「……兄さん、フォローが雑です」


 ふむ……?

 私は精一杯フォローしたつもりだったのだが……とりあえず彼女をナデナデしておこう。


 なでなでなで……


「わふわふっ~~!?」


「……兄さん」


 私たちのにぎやかな昼食が続いていた。



 ***  ***


「あっ! カールさん! そこの淵、深さ2.5mに良型のニジマス発見ですっ!」


「おお、よく見えるなアイナ……それっ!」


 的確なアイナのアドバイスにより、私は1.5㎏はあろうかという大型のニジマスを釣り上げることに成功する!


「やたっ! 今夜はニジマスのムニエルですねっ!」


 ぴょんぴょん飛び跳ねて喜びを表すアイナ……私とアイナは、オフである午後、村近くのカイナー湖へ釣りに来ていた。


 透明度の高い湖面に青空が映り、とても美しい光景が広がる……。

 そう! 私はこういうスローライフを求めていたのだ。

 最高だな!


 アイナにもオフを与えたのだが、「身辺警護はメイドの仕事ですっ!」とついて来てくれた。


 たった一度彼女のピンチを救っただけだが、彼女は絶対の信頼と尊敬を私に向けてくれる……どこかくすぐったくてほんわかする感情……私にとって、久しぶりに感じる安らぎだった。


「……それにしても、この辺りはブドウ畑が多いんだな……秋にはワインも作っているのか?」


「! そうですよカールさん! 村の女性陣が、うおおおおおっ! って感じで作る足踏みワインは、絶品なんですから!」


 村の名物について語れるのが嬉しいのか、しっぽをぶんぶん振りながら力説するアイナ。


 ……カイナー村の女性陣の足踏みワイン……さぞかしパンチのある赤ワインが出来そうである。


「ふむ……だがブドウに虫食いが多いのが気になるな? この辺りは害虫も多いか?」


「うう、そうなんです……この辺の土地は肥沃なので虫も多いですぅ……農薬は湖を汚しちゃうので使いたくないですし……」


 なるほど……もしかしたらアレが使えるかもしれない……以前開発したものの、いまいち有用性を理解してもらえなかった試作品の事を私は思い出していた。

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