ラストシーンの美しさと切なさが生む余韻が心地いい。

 優しく、あたたかい話だった。
 内容もそうだが、描写が優しい。見たもの、感じたことの表現が生きている。登場人物の目線が、きちんと視点として感じられる。
 語りを心地よく読めるというのは、そうした生きた視点、生きた言葉があるからだと感じる。
 会話の描写もいい。ちょっとしたやり取りで、二人の心の距離感が伝わり、合間に挟まれる出会いのきっかけや過ごした日々の振り返りも、会話のリズムを阻害することなく挿入されており、やり取りを盛り上げていく。
 だが、読み進めていくと、物語は少しずつ不穏さを醸し出す。
 そして、明かされる事実。
 衝撃の事実と共に、物語は幻想味ある展開へと進む。それと同時に、等身大の目線であった語り部の感情があふれてくる。
 描写を静かに積み上げてきたからこそ、溢れる感情描写が感動を生んでいる。だから、この奇跡のようなシーンには、説明を超えた説得力があるのだろう。
 語り部の語りが、言葉が、胸に沁みる。ラストシーンの美しさと切なさが生む余韻が心地いい。
 冒頭に書いたように、優しく、あたたかい話だ。何かの合間に、家でのくつろぎの時間に。時や場所を選ばず、心に良い物語を接種したいという時にぜひ読んでほしいおすすめの一作。