第40話  夏休み (8)


 目が覚めると、背中を向けていたはずの柚花がこちらを向いていた。


 寝返りぐらいは打つか……そう思いながらスマホで時間を確認する。


 スマホには10時と記されていた。


「10時か………………え、10時?」


 思わず声が漏れる。

 感覚的にはまだ7時か8時ぐらいだと思っていたのだ。


 朝食の時間は8時半からだった気がする。




 隣を見ると、とても気持ちよさそうに柚花が寝ている。寝顔まで可愛いとは反則級だ。


 だが、もう少しだけ寝かせてあげよう―――とは思えない時間だったため、仕方なく起こすことにした。


「柚花起きてくれ。もう10時だよ」


 優しく揺りながら話しかける。


 柚花は「んっ……」と喉を鳴らしながら、何回目かの揺りで目を覚ました。


「ふわぁ〜……おはようございます。凛くん」


 まだ眠いのか、あくびをしながら柚花が挨拶をする。


 その仕草どれを取っても、見惚れてしまうほどの魅力があるのだが、まだ事態が把握できていない柚花にはしっかりと教えてあげなくてはいけない。


「うん、おはよう柚花。今の時間見てみな」


「時間ですか?8時ぐらいだと思いますけど。確か、朝食が8時半でしたね。急がなきゃいけない……え、10時」


「そう、僕も5分前ほどに起きたんだけど、僕たちは大遅刻をしてしまったみたいだね」


「そんな、人生で一度も遅刻なんてしたことないのに……」


「あはは、僕もないよ」


 冗談混じりに返事をしたが、なんとなく遅刻してしまった理由はわかっていた。


 多分だけど、2人とも安心しきってしまったのだと思う。


 ここ最近旅行のこともそうだけど、2人の関係について僕は相当考えた。柚花もそれは同じ。


 その結果、付き合うと言うお互いが望む形になったのだからなんとなくだが頷ける。


 だからと言って、朝食を予約していたのにすっぽかしていい理由にはならない。後でしっかり謝りに行こうとは思う。


「とりあえず、準備しちゃおう。途中でファミレスにでも行って腹越しらいしてからでも、全然お昼過ぎには着くだろうし」


「そうですね。とりあえず準備しちゃいましょう」


「じゃー僕は居間の方で着替えるから、柚花はここ使って」


「え、一緒に着替えなくていいんですか?見なくていいんですか?」


 先程までの反省モードから切り替えたのか、とても悪戯な笑みを浮かべて僕の顔を柚花は見ていた。


 本気で言われたのなら少しだけ戸惑ってしまっていただろう。


「それは、私の着替えているところを見てくださいってことかな??それなら恥ずかしいけど、ガン見させてもらおうかな……」


「いや――ちょ――そ、そう言うわけじゃないですから。私、そんなハレンチな女じゃありません!!」


「うん、知ってるよ。おちょくってきたから、やり返し」


「む〜凛くんの意地悪!!」


「あはは、柚花の自業自得だよ!じゃー着替えてくるから。11時までには出ようね」


「は〜い。なるべく早く終わらせるようにします」


 そう言って、僕たちは別々に準備を開始した。


 とは言っても、今日の目的地が海ということ、昨日汗をかかなかったことから、行きは着ていく洋服を昨日と同じにしようと話していた。この提案を柚花からされた時はびっくりしたが、確かに海に入る前から綺麗な服を着るのは少しだけ抵抗がある。


 海に入り終わった後、シャワーを浴びれるのだから、その後で綺麗な服に着替えるのでも問題はないのだ。


 だからか、10時半には出かける準備ができてしまった。


 ―――――――――


 旅館から出る前に、フロントにいるスタッフに謝罪をした。

「よくあることですので――」と、その他に何も言われることなく許してもらえた。

 朝食の内容自体もバイキング形式だったことも幸いしていたらしい。


 だが、料理をしてくれている人達にとっては申し訳ないことをしたなとやはり思ってしまうので、今日の分も含めて明日の朝食でいっぱい食べようと心に決めた。



 旅館から駅までの間にあるファミレスに寄ってから、目的地である海へと向かう。


 今回行くことになっている海は、伊豆半島の下田にある多々戸浜という場所。

 写真を見る限り、白い砂浜に透明度の高い海が映っていたため、期待は高い。


 ここからは電車で2時間行ったところなので、決して近いとは言い難いが楽しみではあった。


 ちなみに昨日と同じ格好をしている柚花だが、少々変わっているところもある。

 昨日はうっすらと透けて見えていた茶色いブラトップから白一色の物に代わっていたのだ。


 多分だが水着だと思う。


 上に来ている服が同じ白色だからか、はっきりと見えないのがまた想像を働かせて気になってしまっていた。


 2人で乗る電車の時間も楽しいのだが、今回だけは早く海についてくれないかなと思ってしまった。


 ―――――――――


 時刻は12時30分。多々戸浜に着いた僕たちはその光景に目を奪われていた。


 写真で見ていたよりも白い砂浜と透明度が高すぎる海が広がっていたのだ。


 沖縄やハワイなどの南国でしか見ることができないと思っていた海がそこには広がっており、言葉が出なくなった。


 柚花もそれは同じだったようで、珍しくスマホで写真を撮っている。


 写真を撮ることはしないが、思う存分海を楽しもう――と、僕としては珍しくそう心に決めたのであった。


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40話読んで頂きありがとうございます!


多々戸浜実際行ったことありますが、確かに綺麗な海でした。

もしよかったら行ってみてください!!


応援、コメント、いつもありがとうございます!


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