第19話  体育祭 その3

「え?柚はこの人を選んだって事?」


「そう言うこと……かな」


「へぇ〜柚と連絡先交換するとかやるじゃん〜」


 ツンツンと僕のことを指差して来る、やたら距離感が近いこの女子の名前は桃崎 桜ももざき さくらと言う名前らしい。

 名前を聞いた率直な感想はピンクが似合いそうな名前だと思う。

 実際、髪の毛薄いピンクなのだが……。


 柚花が僕に嘘を付く必要もないし信じてはいたけど、1人しか連絡先を交換しないと言うのは本当の事みたいだ。



「でもさ〜今日あったばかりにしては仲良くない??さくの気のせい??」


 この言い方絶対近くで見てただろ……。


「そうかな?気のせいだと思うよ?」


 柚花は何事もないように返しているし、女子って怖いな……。


「そっか〜ならいいや。まだ2人で話すの?」


 無言の圧を感じるよ。

 無言の圧を……。

 周りの目も少し気になり始めていたし、僕は話を終わらせることにした。


「僕は行かなきゃいけないから、もう話はできないかな……また話せる機会があったら話そうね」


 別に体育祭中話せなくたって家に帰れば話すことはできるしね。

 今は引くのが吉な感じがした。





 座る場所まで来ると、数名の男子から視線が飛ばされていることに気がついた。


(やっぱり見られてたか……あそこで話したのがいけなかったかもな)


 柚花と話したこと自体を後悔しているわけではないが、時と場所を考えるべきだったと反省はしようと思う。


 影を潜め、どうにか開会式までやり過ごそうと思っていると、この間僕に声をかけてきた男子たちが近寄って来るのがわかった。


「な〜岡、やっぱりさっき話してたのって、この間映画の時のやつだよな?」


 ……3人で来るくせに毎回声をかけるのは1人なんだな。

 前回と同じく、馴れ馴れしいし……。

 話すのはこれで2回目だぞ?

 この人のコミュ力がわけわからん。


「この間も言ったけど、映画なんて言ってないし、彼女とは今日初めて会ったよ」


 嘘つく必要があるのかとも思うが、正直に話す必要もないので、初対面を貫こうと思う。


「そうなのか……なら俺らが声かけても問題はないよな?」


 声かけるのは好きにすればいいと思うが柚花は嫌がるだろうし、柚花に声をかけさせないようにしとくか。


「あのさ、さっき話した時に聞いたんだけど南美高校の人たちには学校伝統のルールと言うものがあるらしいんだよ」


「なんだよ、それ」


「できれば内緒にして欲しいんだけど、内緒にできる??」


 そこまで内緒にしてほしいわけではない。

 内緒という言葉を使うことに意味があるのだ。


「お……おう、するよ。でも俺1人聞くのもあれだからあいつらも一緒に聞かせてほしい?」


 そう言って指差したのは少し離れたところからこちらを見ている連れの2人だった。


「どっちみち聞かれるだろうしいいよ。その代わり3人だけだからね」


「ありがとよ。おい、ちょっとこっち来てくれ」


 呼ばれたことに驚きながらも、2人がこっちに来たので僕はなるべく秘密にしてほしい雰囲気を出しながら話すことにした。


「南美高校の中では……一回の行事に付き1人までしか連絡先を交換してはいけないんだって」


 僕の一言に目を丸くする3人。

 僕も聞いた時は驚いたよ……少しだけね。


「嘘だろ。それだと、選ばれた人しか交換出来ないじゃないか……」


 3人のうちの1人がボソッとつぶやいた。

 いいぞ、そう思うことが重要なんだ。

 思ってくれるからこそ次に僕が言う発言が効果を発揮する。


「そう思うだろ……でも違うんだ」


「「「違う???」」」


 ククッ……息ぴったりだな。


「そう、違う。男子を選ぼうとする女子を探すんじゃなくて、声をかけられたくないから1人を探す女子をこちらが選べばいいんだよ」


 僕はあえてややこしく、わかりにくい言い方をした。

 その方がこの系統の男子は納得しちゃうから。


「「「な、なるほど」」」


 ほらね!


「俺らはなるべく、1人を探す女子に声をかければ数人と連絡先が交換できると言う事だな」


 3人のうちの1人がご都合理解を発動させてくれたおかげで柚花が嫌がる未来は避けられた。


 結局、僕は3人からはお礼すら言われてしまった。

 とても嬉しそうに去っていったので少しだけ、本当に少しだけ申し訳ないと思った。




 良いタイングで、開会式が始まってくれたので実践しに行った3人から、また声をかけられる事はなく体育祭は始まった。


 僕が出る種目は全部午後からなので、午前中はのんびり過ごそうと思う。







 開会式が終わり最初の種目が始まろうとしていた時だった……


「あの……岡くんだっけ?」


 先程聞いたばかりだったのでその声はすぐに誰だかわかった。


「桃崎さんだっけ?どうしたの?」


「あ……えっと、話したいことあるからちょっといいかな?」


 そう言って僕はグラウンドの空いてるスペースへと連れて来られた。


「それで……話って?」


 柚花も近くにいるのかと思ったら、桃崎さんは1人だった。


「単刀直入に聞くけど、柚に近づいて何が目的なの?」


 先程より口調を強くして桃崎さんは訳の分からない質問を僕にしてきた。




 …………………え、目的?ってなんだろう。


 質問の意図がわからなかった。

 心の中で目的について考えることにしたが、見つけることは……できなかった。


「ごめん……目的って??」


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19話読んで頂きありがとうございます!


お知らせです。

新しい小説を投稿しました。

「二重人格である僕の彼女も二重人格」

と言う題名です。

題名の通り二重人格同士の恋愛を描いたライトノベルとなっています。

よかったら読んで行ってください!



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よろしくお願い致します。




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