第6話  僕は映画館で隣に座った美少女と友達になった。

高校の入学式まで1ヶ月となった3月のある日。


中学を卒業後、家から遠く離れた高校に通うため、一人暮らしをすることになった僕はこの15階建てマンションに引っ越して来た。


ちなみに僕の家は8階だ。



引っ越しが終わり少し落ち着いて来たので、僕は隣の住人に挨拶をする事にした。

僕の家は角部屋なので挨拶が一回だけなのは助かる。



"ピンポーン"


『はーい』


インターホンから聞こえてきたのは女子の声だった。


女子だと思っていなかった僕は少しぐらい外行きの格好をするべきだったと後悔した。


別にカッコいいとか思って欲しいわけではない。

でも隣で生活していくのだ、時々会うこともあるだろうし、何かと接点とかも出てくるかもしれない。


それなのに、こんな格好で、ましては前髪も目のあたりまで下ろしている僕は不潔だと思われかねないのだ。

それは流石に回避したかった。


とりあえず今の僕に出来ることは、言葉遣いで信頼を得ること。

引っ越しの時に一度伺ったが留守だったので、引っ越しの挨拶は省く事にすらる。


『初めまして。本日、隣に引っ越して参りました岡です』


僕がそう言うと、『わざわざすいません。今そちらに行きますね』と言われて通信を切られてしまった。




ドアから出て来たのは、僕と同い年ぐらいの女子。

綺麗な髪の毛だ、とは思ったがオタクチックの丸眼鏡に加えて、彼女も髪の毛で少し目が隠れていたため親近感を覚えてしまった。

最初のイメージは暗めと言った感じだろう。


「初めまして青園です。よろしくお願いいたします」


「こちらこそ、改めまして岡と申します。よろしくお願い致します。これ、ささやかなものではありますがお使い頂ければ幸いです」


「こんなに……わざわざありがとうございます」



そう言って彼女は一礼後、ドアを閉めてしまった。

だが、僕自身どう話を切り上げていいのかわからなかったため少しだけ助かった。



それからと言うもの、僕と青園さんが外で鉢合わせる時は必ず外行きの格好をしていない、ゴミ出しなどのドキドキだったのだ。


だからこそだろう、今僕がこんなに驚いているのは。


まさかあの青園さんがこんなに美少女だったとは思ってもいなかった。


本当にびっくりだ……


「青園さんだとは気付かなかったよ。こんな偶然あるんだね」


4本目の映画が終わり、他の人が出るのを待っている間に僕は話しかける事にした。


「そうですね。私もまさか岡くんだったとは思っていませんでした」


まぁ、そうだよね。

でも僕前から岡くんと呼ばれていたっけな?

まぁ〜いいや。


「それよりも青園さんは映画好きなんだね」


「そ、そうですね。特に1人で見ることが……」


「僕もだよ。1人で映画を見ることが僕の趣味だしね」


「趣味が一緒のことも驚きましたが、映画の見かた、座席の取る位置までも似たような場所で驚きを超えて怖いとすら思います」


「確かに……でも、友達になったら良い友達になれそうだね」


あ、つい口が滑ってしまった。

だが、友達になれたら良い友達になれそうなのは本当に思っていることなので別にいいとする。


「友達ですか……異性の友達なんて小学生以来出来たことありませんので想像付きませんね」


「それは僕も同じかな」


中学までは共学だったけど、その時には1人でいる事が多かったので異性の友達なんていなかった。



それよりも……


「僕たちも出ないとね」


気付いたら、劇場内は僕たち2人だけになっていた。


「そうですね」


僕たちは少しだけ急いで出口に向かった。






出たあとは一緒にいたりするわけではなく別々の行動をした。

僕からしても急に話すことなど無理なのでこれでよかった。


5本目の映画ではドリンクにトルティーヤを購入する事にした。

映画に集中したいため、トルティーヤは予告時に食べてしまうつもりだ。


ちなみに……5本目の映画は、ずっと昔から見てきた蜘蛛のヒーローシリーズの最新作だ。

なんか噂では歴代の敵が出てくるらしく、僕は2ヶ月前から見る日を楽しみにしていた。



アナウンスが流れ、すぐに劇場内に入った僕は早速トルティーヤを口に運ぶ。

うん!!美味しい!


すると入り口の方から青園さんが上がってきた。

彼女はドリンクだけみたいだ。




僕の横に座った青園さんは、なぜか僕のことをいや、僕のトルティーヤを見ていた。


「どうしたの?青園さん」


「あ、いや、隣で食べられると私まで食べたくなってきてしまうなと思いまして……」


少しだけ申し訳なさを感じてしまった。

でも、僕は何も悪くないよな……あ、それなら!


「なら、半分いります?口付けていないところで分けますよ?」


「え!いいんですか??」


「はい。いいですよ」


そう言って僕は半分、青園さんにトルティーヤをあげる事にした。

受け取った青園さんは小さい声で、「家帰ったら運動しなきゃな……」と言った後に、


「ありがとうございます」


と言ってきた。

本当に感謝されているのだろうか、と思ってしまったが気にしない事にする。




本編までに食べ終わることができた僕は辺りが暗くなった事によりスクリーンに全意識を向けるのだった。







2時間を少し過ぎるぐらいで映画が終わった。

このシリーズの映画は最後のエンドロール時に、次の映画に続く重要なシーンを見せてくれる。

なので、いつもより残っている人の数が多くなっていた。



そんなことより、本当に面白かった。

まさか、あんなサプライズがあるなんて。

久しぶりに映画館で感動して泣いてしまった。

流石にあそこで泣かないのはこのシリーズを好きだとは言えないだろう。(個人的な感想)


「とても良かったですね」


青園さんからそう言われた。

青園さんの顔を見ると、少しだけ目が赤くなっていた。

多分感動してのことだろう。


「あの○○のシーンは前作と言うか今までの作品見て来ているからこそ感動したよね」


僕がそう言うと、


「そう!そうなんです。あそこは流石に涙を堪える事が出来ませんでした」


そのあと僕たちは少しだけ感想に花を咲かせました。



「もう一度見たいですね!」


「そ、そうだね……」


ですが、感想を言い合っていく内に僕は気付くことがありました。


「どうしたんですか?」


ここまで話したのだ僕は思い切って言ってみることにした。


「いや……今までこうやって映画の感想を言い合う人がいなかったからさ…… 」


「そうですね……私もそれは同じです」


「誰かと感想を言い合うこと、共有し合うことがこんなにも嬉しくて楽しい事だとは思わなかったんだ。

そして、今後1人で映画を見る場合はこの嬉しさ・楽しさを味わう事はできないんだなって、これが1人で映画を見る事の不便さなのかな、って思ってしまったんだ」


「1人で映画を見ることの不便さ……ですか?」


「うん。わかりやすく言うと……貧相な生活しか知らない子供が一回でも贅沢な生活をしてしまったら、もう貧相な生活には戻る事ができない、と言ったところかな」


「なるほど……たしかに私も今日の映画鑑賞、特に最後の映画に於いては感想などを誰かに共有したいと思いました。

ですが、今日もし隣に岡くんが座っていなかったとしたら、誰にも話すことなく私の中でこの気持ちが治るまで我慢する事になったでしょう」


「うん。僕もそうなっていたと思うよ」


「そして、今日隣に岡くんではない私と同じような趣味を持った人が居たとしても、感想を共有したかと聞かれたら私はしていないと思います。

理由としてはもしかしたら私の感想が否定されるかもしれないから。私は私の感想を否定して欲しくはありません。求めているのは肯定か共感だけなのです。

ではなぜ岡くんには感想などを言うつもりになったのか……それは、たまたまではありますが5回も同じ映画を見て、岡くんとは映画の時に注目する点、感じることが同じ、もしくわ似ていると思ったからです」


「う、うん」


結局青園さんは何が言いたいのだろうか……


「伝わっていないみたいですね……

私が言いたいのは、岡くんだったから感想を伝えた、と言うことです。

そして、岡くんも私だったから感想を言ったのだと思っています。

そのことから、1人で映画を見ることの不便さがあることは肯定しますが、それはあくまで私と岡くんが一緒に映画を見る時に尽きるという話ではないのか、と思うのです」


ん?だと、すると……


「青園さんと僕が一緒に映画を見る時だけ、この不便さを解決出来ると言うこと?」


「言い切る事は出来ないですけど私はそう思います。岡くんが、これから友達を作り友達と映画を見にこない限りは……ですけどね。

私は友達と見に来たことがありますので言い切ることできます」


そうなのか、僕は青園さんだからこそ感想を伝えたいと思ったのか……


確かに言われて見たら、この5回の映画を通じて僕は青園さんが映画をどのように見ているのか、どのような感想を持っているのかを偶然知ることができていた。

そして、それが僕と似ていると言うことも知ることができていた。


「なるほど……理解できたし納得した」


「はい。伝わって良かったです……と言うことで、先程のことですが」


先程のこと?なんだろう……


「は、はい……」


「改めて映画を見る趣味を持つ者同士ということで私と友達になりませんか?」


「え、あ、」


先程と言うのは僕が誤って口を滑らせてしまった時に言った事か。


「嫌なら大丈夫です」


「嫌じゃないよ。よろしくお願いします」


「はい!こちらこそよろしくお願いします!」






そうして、僕は映画館で隣に座った美少女と友達になった。





映画一本目の時の僕は思ってみもなかっただろうな。


隣に座っていたあたおか美少女が隣に住んでいる青園さんで、5本目終了時には友達になるなんて……


そう思っていると、


「あの……すいません。そろそろ退出してもらっても構いませんか??」


スタッフの方にそう言われてしまった。


「「あ、すいません今出ますね」」


またもや僕たちはハモった。


もしかしたら映画以外でも

  青園さんとは、気が合うのかもしれない。


___________________________________________

6話読んで頂きありがとうございます!


長くなりましたがここまでが、この物語の発端である事からプロローグとなっています。

普通、プロローグって短いものなんですけどね。


今日から章の方も表示させて頂きます。

一章の名前はまだ付けませんが、次からが一章という事になります。


ちなみにこの6話までの日曜日は高校入学してから1ヶ月が経った5月7日の日曜日となっております。


章の事、曜日・日にちの事、ご理解の程よろしくお願いいたします。



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