三十七着目「煽り耐性ゼロ、マウント耐性ゼロ、教える気ゼロ」

「何してんだよ。早く勉強しろよ……」

 僕は、不愉快極まりなかった。

 ボソッと呟くように、冷たく言い放ち、彼にキツく当たった。

 だって、コイツ(リョーマ)のせいで僕の進退がかかっている。

 僕の頑張りではなく、コイツの頑張りで、僕の人生が左右されてしまうのだ。

 とても、不愉快だ。不機嫌になっても当然だ!


「分かってるって……今やろうとしてるだろっ!」

 売り言葉に買い言葉で応戦するリョーマ君。

 この時、何でコイツがこんなケンカ腰なのか、全くもって理解できなかった。


 口では威勢のいい事を言っておきながら、全くペンの進まないリョーマ君を見て、僕はさらにイライラが募った。


「何してんだよ!だから早くしろって!!!」

 眠気とイライラに任せて、僕は怒鳴った。


「もう!うるさいなっ!!オレだって何したら良いか、わかんないんだよっ!!!」

 半べそで、切れ気味に応えるリョーマ君。


「うっせーな!!こっちは、片道二時間半かけて来てんだよ!合格するために徹夜してんだよ!何でオメェに足引っ張られて、こっちまで落ちなきゃなんねーんだよ!!!」

 僕は、怒りに任せてさらに、リョーマ君を糾弾した。


「はっ!オレだって別に夕太郎君に助けてくれなんて一言も言ってないし!だいたい、二時間半もかけて来るのが嫌なら辞めればいいだろっ!」


『ドンッ!!!』

 僕は、力任せに自分の机を拳で叩いた。

 アドレナリンどばどばで痛みは全く感じなかったが、手は鮮やかに、そして腫れていた。


「んだとっ!!!お前が不合格なのがいけないんだろっ!オメェの“自己責任”じゃねーかよ!!なんでこっちまで泥被んなきゃいけねーんだよ!!」

 僕にとって一番嫌な言葉を、咄嗟に口にしていた。

 出会ってたった一週間とはいえ、友人にあんなヒドい事を言ってしまうなんて……まさか、僕がこの言葉を使う側になるとは思ってもみなかった。


『自己責任』と……


 この言葉を口にした後、前の会社の社長や同僚達の顔が、ふと浮かんだ……


 あぁ……もしかしたら、社長達もダメリーマンだった僕に対して、同じような感情を抱いていたのかな……

 そう考えると、怒りのボルテージも少し下がり、リョーマ君に対するこれまでの態度や言動を反省した。


「ほら、解答見ろよ。これ写せば合格出来るだろ」

 僕の回答用紙をリョーマ君に渡した。


 しばらく、僕の回答用紙をマジマジと眺めニンマリと笑うリョーマ君

「一縷さんの故郷は、静岡じゃないよ?なんでそんなのもわかんねーの?バッカじゃ~ん」

 この期に及んで、なおも臨戦態勢のリョーマ君。

 僕に対して、一縷マウントを取って来た。


 ああ、設問20問めか、一縷さんの故郷が神奈川県足柄なんて、どうでもいい。一縷推しじゃない僕がどうやって知り得るというのか?

 というか、昨日の講習で一言も教えてくれなかった一縷さんに余計にイライラして来た。


「クソアホ一縷の事なんて、どぉお!でもいいわ!!」

 リョーマ君の一言で、怒りのボルテージが再浮上した僕は、確信犯的に超本音を吐いた。

 そして、リョーマ君に如何に時間が経ってるかが分かるよう、厭味ったらしくわざと大げさに振舞い、研修室の壁掛け時計の方向を指さした。


「クッ……」

 物凄く、言い返したい雰囲気を醸し出しながら、苦虫を嚙み潰したように歯を食いしばり、ペンを進めるリョーマ君。


 残り少ない時間、とりあえずの停戦協定が結ばれたようだ。


「あ~、もうマジこいつには何も教えね~」

 僕は捨て台詞を吐き、机に突っ伏してふて寝した。


『ガラガラガラ』

 再び、吉野執事が研修室に戻って来た。


 二人の関係がひび割れたまま、運命の追試が開始された。

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