かいりりかい

 りゅうを倒すにはお金がかかる。追い払うのはそれより、安価で済む。

 だから、竜払いという仕事がある。



 折れてしまった長剣を短剣へ加工する。

 竜払いは、竜を払うとき、特別な剣を使う。竜の骨で出来た剣だった。それが、先日、根本から折れた。いま、手には剣がなく、さびしい限りである。

 竜の骨とはいえ、けっきょく素材が骨なので、溶かしてくっつけることはできない。けれど、竜の骨は希少品である。高いし、とうぜん、あたらしい剣を買うにはお金がかかる。

 そこで考えた。折れた刃の部分で、短剣化できまい

 そんなこと、できるのか。じつは、知らない。か。現時点で、妄想領域の発案でしかない。

 思い立ち、とりあえず、折れた刃を布でくるんで、この大陸内でもかなり大きな部類に属する都まで向かった。巨大な港を抱えた都は、人、物、情報が交わり、かつ、文化も、技術も混じり、総じて、つねに盛り上がっている場所である。なにか、手がみつかるかもしれない。

 出発し、やがて、都の西側にある、さまざまな職人たちが軒を連ねる一帯までやってきた。狭い道に、多くの人々が行きかっている。そんな人々と、肩を擦れ合わせつつ、店を探す。それぞれの店先には、見慣れた道具や、仕様用途がまったく不明な道具が並んでいた。それを熱心に、品定めする者たちもいる。

 折れた長剣の刃を、短剣に加工する。しかも、特別な、竜の骨で出来た刃を。

 となると、とうぜん、竜払い用の剣をつくる職人を探す必要があった。ただ、この大陸では、剣で竜を払う者は少ない。となると、剣の需要も低く、そういった職人の数もまた少ないだろう。

 以前いた大陸では、知己の職人がいた。あいつなら、技術は確かだし、安心して依頼できる。けれど、あいつは、この大陸からは大海を挟んだ向こうにいる。便りを出して、やりとりしても、かなり時間がかかるし、なにより、折れた剣は、そこそこさいきん、あいつにつくってもらった剣である。

それを、ひかくてき、すぐ、折った。

 じつに、頼みにくい。

 いや、いずれは、あいつに、あたらしい長剣を発注するつもりである。けれど、いまじゃない。

 じっくり、煮込み料理のように、ことこと時間かけて、あけて、よし、うん、これくらい時間が足れば、剣が折れたので、またつくってほしいと頼んで、いや、けっきょく、あいつが不機嫌になるかもしれないけれど、それでも、やれやれ、といった感じでつくってくれるくらいの、時間をあけねば。

 怒られたくない、そんな自己都合ばかり考えながら都を歩くので、集中力の品質も悪く、折れた刃を短剣にしてくれそうな店も、まったく、みつからない。

 賞味、ぐずである。

 ただ、そのときだった。ふと、ある人物のことを思い出した。その名はポポロロ。

 彼女は、この大陸でも稀な、竜払い用の剣の手入れができる職人だった。

 そこへ持ち込んでみよう。そう決めて、都を離れ、彼女の工房まで向かった。

 半日後、彼女の工房へと到着する。工房は林で囲われており、透明な小川が流れるそばにあった。

扉を叩くと、はんぶん扉が開き、彼女がはんぶん顔を出した。

 小柄な彼女は、あいかわらず憮然とした表情で出迎えた。たしか、二十歳くらいである。

 その憮然とした表情を崩さないまま、以前の訪れたときのように、まずおれの顔をじっと見て来る。観察である。やがて、彼女は「わたし、貴方の愛は、受け入れられない」と言い放ってきた。

 文脈がわからない。

 そして、わかる努力を微塵もする気はない。

おれは「こんにちは」とだけ挨拶した。基本は無視による、突破である。

 彼女は「まいど」すぐに切り替えた。それほど、熱の入った攻撃でもなかったらしい。そして「で」と、訪問理由を話せと、雑にうながしてきた。

 おれは、折れた刃を見せ、それから短剣をつくれないかと話した。竜の骨で出来た短剣にできないか。

「金のためだ、やろう」

 彼女はそう答えた。

 品性を除外して考えるに、信頼できる回答ともいえる。

「わたしには、金しかない。金だけだ、金だけさ」

 さらに情報の供給過多攻撃も仕掛けてくる。おれは、無視した。

 十二日後、工房を訊ねると、短剣は予定日通り完成した。

青空の下、鞘におさまった短剣を抜く。剣身は白く、短い。刃は入っていないので、林檎のかわも向けない短剣である。ずいぶん、短くなってしまった。けれど、ふたたびこの手に返って来た。友人に再会した気分にちかい。

「いまのあんたの気持ち、わかるよ」

 と、ポポロロがいった。

「わかるわかる」

 そんな彼女の方を見る。いつもの憮然とした表情ではなく、どこか悲そうだった。

「あたらしい剣を買うと、お金、かかるものね。お金減らしたくないものね、内蔵が痛くなるくらいの出費だもの」

 とりあえず、いまの気持ちは、わかってなかった。

「わかるよ、あんたは、わたしと同じ、けちさ、けち者さ。おなじけちの血が、どくどく流れている。ともだちよりも、けち、そうさ、かなしいくらい、こころが貧しい、けちなのさ」

 よし。

 値切るぜ、加工代。

 きみの思い通りのにんげんになるためにな。

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