近所の姉妹が攻めてくる

雅也

第1話


                  1


「あのぉ~......」

「ん?...、何だ?」



 コレは一体どういう事なのかと、純一は今この現状を把握出来ないでいた。



       *



 伊奈 純一(いな じゅんいち)24歳。 高卒後、そこそこの規模の会社の工場で働きはじめて6年目になる社会人だ。


 今、純一の置かれている状態は、伊奈家の2階にある自分の部屋で、3人の女子に迫られている状況だ。




「あのな純一。コイツどうやらお前の事が気になるらしいんだ。今日、私たちの付き添いで、その思いを成就させてやることにしたんだ。だから、ジュンからの反論は一切受け付けない.....って言うか、無しだ!」


「なんで~!!......」


「ジュンくん、ウチの妹可愛いでしょ?...、彼女にするには十分だと思うんだ。それに、私も、妹の彼氏が親友の弟という事なら、安心してジュンくんに預けられるから......」


 そう言ってきた当の本人の姉である 逢(あい)だ。

 理不尽だと思った純一は、女子軍団に時々は言い返すのだが、そのすべては受け入れてもらう事は皆無な状況だった。


「ま、最初は試しに何度かのデートからだな。ふむ......」


 先ほどから半強制的な言い回しをしているのは、純一の実の姉の、伊奈 陽香(いな ようか)25歳。

 大手家電会社勤務の、社会人OLだ。


 次が、姉の友人で、川本 逢(かわもと あい)25歳。 陽香と学生時代からの友人で、その陽香と同じ企業に同期入社した。


そして3人目が......。



 川本 美成(かわもと みなる)23歳。

 大学を卒業後、自宅からあまり遠くない一般企業に事務として、入社したての社会人1年目だ。


 その美成の事で、今、純一がこの様な状況になっているのだった。




「え...、えぇっと~......。 何かな?コレは......、それに、何で美成が姉妹でココにいるのかなぁ~......」


 若干だが、しらばっくれた素振りをしている純一に、陽香が。

「ほほう......、良い根性してるじゃないかぁ? 純一......」



「............」



「やっぱな。 黙っているって言う事は、自分でも心当たり......、いや、気付いていたって事なんだな」


「あ...、あのね、ジュンくん。 わたし......、わたし、こうでもしないと、あなたに告る事が出来なかったの、だから......、私の気持ち分かってよね」


 川本家の美人姉妹で、純一よりも一つ下の妹が、いつもと全く違う口調で、しかも強力な仲間とともに、いい香り×3を漂わせ、純一に迫っている。

 今までいい関係だとは思って居た純一だが、幼馴染と言う位置づけで、恋愛感情と言う事で見ては無かった。



       ◇



 伊奈 純一は母と姉の陽香との3人でこの町に約10年前引っ越して来た。と言うよりも、戻って来たのだった。

 理由は、純一の父が純一が小学生の時に他界したからだった。 

 その後は暫くそのままその地方で暮らしていたのだが、母親が働きに出て行く様になると、殆ど姉弟での生活になり、まだ小学生の純一と、中学に上がったばかりの陽香だけでは不安だと思った母親が、自分の実家に戻り、その親(祖父祖母)からの心配する声もあり、今の町に戻って来たのだった。


 伊奈家と川本家は同じ小学校区内に家があり、お互いの家はすぐ近くでは無いが、歩いても数分ほどの距離だ。なので、越してきた陽香と逢は、同級生という事と、比較的近所という事もあり、じきに仲が良くなり。お互いの家を行き来することが普通になって行った。


 そうなると、普段から双方の家を行き来する姉たちに、時々だが、逢の妹の美成も時々伊奈家に来る様になった。

 そう言う事になると、伊奈家に遊びに来た川本姉妹と純一も、時々顔を合わせる事も度々あるようになり、数年経つと、休日のショッピングに、荷物持ちとして純一が半強制的に連行されることも少なくなかった。


 ひときわ背の高い純一は、イケメンでは無いが、優しい面持ちであるのと、若干だが、陰キャまでとはいかないが、大人し目の性格である。それでも、女子3人のボディガード(一応)を兼ねての半強制連行となる事は日常だった。


 そう言う日々が数年続き、段々と大人っぽくなっていく女子3人に混ざり、4人が一緒に街を歩く姿は、見た目、ちょっとしたハーレム状態に見えた。



          ◇



「ねえ、さっきから黙ってないで、何か言ってくれない?」


 純一の今の状態は、傍から見たら微笑ましいモノでは無く、危機と言っても良い状態になってしまっている状況だ。


「あ、あのなぁ......」


 純一の口から出た言葉は何とも煮え切らない口調のものだった。


「お......。 とうとう答えが出たか?......。どうだジュン。 覚悟を決めたか?」


 陽香が早急な回答を求めるが。


「こんな状況下で、しかも、考える時間どころか、猶予も与えてくれない状況で、軽々しく返答なんて出来るわけないだろ」

 純一の精一杯の応酬だ。

 そして。


「しかもだな、この状況はあまりにも一方的だとは思わないのか?」




  女子3人からの “押し付け告白” に、純一はたじろいではいたが、いくら自分が(若干だが?)優柔不断な性格でも、こんな一方通行的な事案は受け入れない、しかも強制的に告白を受け入れさせられると思った純一は、はっきりと自分の意見を言った。


「あ、あのなぁ......、いい加減にしろよ。 いくらオレが大人しい性格でも、こんな理不尽な事案を受け入れるわけないだろ?...、そのくらい分かれよ!」


 通常では口に出さない口調で、純一は目の前にいる女子3人に言い放つと、3人が若干だが怯んだ。


......が、逢はそれでも妹の一途な純一への想いを遂げさせるために、純一に言い返す。


「ねえ、ジュンくん。 美成の事好きだよね?」

 過去の美成とのやり取りを思い出しながら逢が言うと。


「そりゃ好きだけど(違う意味で)......」

「じゃぁ何で? 両思いって事で、コレでこの事案はハッピーエンドって事で......」

「おお、そうだな。 ジュン。 この話はコレで丸く収まったな。うむ、よしよし...」

 姉の陽香は、まるでハッピーエンドでこの事案を強制終了しようとしたが、このまま受け入れると、後々非常に困ってしまう純一は、慌てて否定する。


「だ、か、ら、勝手にすすめんなよ姉ちゃん。 オレは......」

 何かを言い出しそうになるが、言葉の途中で純一は口を閉じた。


「なに?純一。 私のこの想いを受けてくれないの?......、それに、今まで私たちっていい雰囲気だったじゃん。なのに......、なのに、何でなの?」


 いままで殆ど口を出さなかった美成が、純一への想いを吐き出した。それに対し、純一の口から出た言葉は.....。



「ゴメンな~.....」


 済まなさそうに目線を逸らしながら、純一は答えた。

 その言葉の後、若干の時間を置いてから、美成の様子をうかがう様に顔を上げると、眉を下げた美成の面持ちがそこにあった。


 必死に涙を堪えてはいるのだが、今にも零れ落ちそうな表面張力度の表情を目の当たりにして、純一は罪悪感が沸き起こって来た。


「うわ!何で美成を泣かす。純一!」


 姉の陽香が当然上手く行くだろうと思い込んだ後の、純一からの謝罪を込めた断りに、立腹した。それに対して純一は。


「あのさ。 いくら3人で迫られても、オレからは OKは出せないからな」




『出せないからな......』




 この何か意味のあるような言いぶりに、姉の陽香はすぐに気が付いた。そして、その何か匂わせる様な言いぶりに、疑問を抱きつつ、純一に言う。


「ジュン。 その言い方、何か意味を含んでいるように取れるんだが」


『あ!!......』

と、この時純一は失言したと思い、慌てて言い直した。


「なに?......。 オレ何かイミフな言い方したっけ?」

と、しらばっくれる様に、純一は言い返したが、その時に、若干だが、キョドッていたように陽香は捉えた。さすが、姉弟である。



『もしかしてコイツ......』


 陽香は、弟の言動に何か感ずいた様だ。




      □ □ □



 この小説をお読み初めて下さっている方々、ありがとうございます。


 相変わらずの、何の変哲もない日常的な内容の小説ですが、最後までお付き合いしていただけると作者はうれしいです。


 最後まで ゆる~ っとしていますので、気楽にお読み下さい。

 本当に来ていただき、ありがとうございます。



 なお、この小説は “オマケの話” も入れて 全8話ですので、ホントに気楽に読み捨ててやってください。









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