クラスごと異世界に召喚されたけど無資格者として放り出されたので、知識チートでスローライフを送ろうと思ったのにハードルートに巻き込まれた。でも大丈夫。奥歯をカチッとすれば誰も俺を倒せない

SHO

異世界召喚

第1話

 俺は本田拓斗ほんだたくと。高校3年の健全な男子だ。どっかのスクーターみたいな名前なんだけど、バイク好きの親父がふざけて付けたらしい。いや、そんな事はどうでもいいか。その親父とお袋も、もういないしな。

 実は俺、もう卒業してたはずなんだよ。去年居眠り運転のトラックに吹っ飛ばされちまってさ。その事故で一緒にいた親父とお袋は死んじまった。

 残念ながら異世界転生とかは無かったし、大手術と滅茶苦茶キツい薬の後遺症、さらにはリハビリを約1年間。おかげでめでたく留年して二度目の高校3年生って訳だ。


 そして復学後初登校の今日、もちろん俺は憂鬱である。もう五月も半ばだ。それなりにいた友達はみんな卒業しちまったし、教室に入っても誰も知らねえヤツばっかりだろう。うまくやっていけるかね、俺。

 ふと、左腕の腕時計っていうか、殆ど腕輪みたいなヤツを見る。もちろん時間を確認するためなんだけど、この腕時計……って言っていいのかどうか分からない怪しいデバイスを見ながら、病院のこれまた怪しいドクターの話を思い出していた。


***


「これは常に肌身離さず装着しておくのじゃ」

「装着!?」


 装着ってなんだよ。

 目の前にいるのはいかにもマッドサイエンティストと言った風体の爺さんだ。そうだな……5人の少年がガンダ〇に乗ってテロるやつの、変形するヤツを開発者した人って言ったら分かるかなぁ?

 白衣に白髪、そして怪しくレンズが光る丸眼鏡。そのレンズのせいで視線は分からないけど、怪しい光を放っているに決まっている。そもそも存在そのものが怪しいからな。

 そしてもう一回言うけど、装着ってなんだよ。ラ〇ダーベルトじゃねえんだよ。


「お前さんの身体は、普通なら死んでるほどにぶっ壊れておった。それを儂の天才的な頭脳と手腕で直した――」

「まて、今絶対直したって言っただろ。そこは治した、だろ」

「どっちでもええわい」

「……」


 この医者だか科学者だか分からん爺さんは、湯飲みから茶をすすり、コトリと机に置く。その手は見事に骨ばっていてしかもシワシワ。こんな手で俺の身体をいじくりまわしたのかと思うと、ちょっと切なくて泣けてきそうだ。


「その腕輪はお前さんの心拍や血圧、血中酸素濃度、体温などなど、色んな情報を儂の所へ転送してくるハイテクなモンじゃ。もちろん20気圧防水、しかも時計や音楽デバイス、携帯電話としても使えるんじゃぞ?」


 20気圧防水とか、そんな水深に潜るつもりはないんだが、超高性能スマートウォッチみたいなもんか?


「それを外すには儂の設定したキーワードが必要での」

「教えろ」

「無理じゃな。音声認識での、儂以外には外せん。それに、それから送られる情報を儂が逐一チェックせんと、お前さんに何かあった時に困るじゃろうて」


 集中治療室の患者を常にナースセンターで監視してるイメージだな。まあ分からなくはないけどさ。

 ――って事はだ。


「じゃあ何か? 俺って本当は、まだ出歩ける状態じゃないって事か?」

「いや、完全に直っておるぞ?」

「だから言い方! 治っておる、だろ!」

「面倒なヤツじゃのう……少しは命の恩人を敬わんかい」

「ぐ、それもそうなんだが……なんかこう、な」


 爺さんは机の引き出しから、何枚かの写真を取り出して俺に見せてきた。レントゲン写真みたいなヤツだな。どうも手術前と手術後らしく、同じ部位がそれぞれ1枚ずつ。

 頭から胴体、腕や足、それに内臓らしきものとか色々。それを見た俺は目を覆いたくなった。事故直後のはもうそれは酷い。端的に言ってぐっちゃぐちゃの粉々。なんで生きてるんだ俺?


「この状態から修理したんじゃからな、その後のモニタリングも重要じゃろ」

「そ、そうかも知れねえけど、修理とか言うなよ」

「まあ、見りゃ分かると思うが、お前さんは普通の手術じゃ修理は無理じゃった」


 どうしてもこの爺さんは俺を機械みたいに扱いたいらしい。それでも言いたい事は理解できる。素人目にみても、あれだけ損傷した身体を元に戻すなんて、しかもたった1年で通常生活に差し支えない程回復するなんて、どんな魔法を使ったんだって気持ちだ。


「今も言ったが、普通じゃ無理なモンを無理じゃないようにするには、普通じゃない事をせにゃならんかった」

「……ああ」

「はっきり言うが、お前さんは体のいい実験台じゃな。あのままじゃあっという間にくたばっておったし、仮に実験が失敗してもどうせ死にゆく身じゃ。都合のいい事にお前さんは意識もなく意思疎通は不可能、同意を得るべき家族もおらんかった」


 爺さんは丸眼鏡のレンズの向こうからじっと俺を見つめて来る。いや、レンズが反射して視線は相変わらず見えないんだけどな。ちっくしょう、この眼鏡が!

 とは言っても、命が助かったのはこの爺さんのお陰だし、その実験とやらが成功したんなら今後の医学の発展に大きな貢献が出来たって事だろしな。


「で、成功したんだろ?」

「うむ。お前さんが今生きとる。それが結果じゃ」

「そうだな。一応感謝しとくよ」


 俺は甚だ遺憾だが爺さんに頭を下げた。無断で実験体にされた事に関しては思うところがあるけどな。しかし爺さんは口元に怪しい笑みを浮かべると、数枚のA4用紙にプリントしたものを俺に放ってよこした。まったく、どんな行動をしても怪しい爺さんだな。


「それを熟読するんじゃ。それを読めばそのデバイスが必要な意味が分かるじゃろ」

「うん?」


 赤文字でマル秘のスタンプ。

 もう怪しい。そしてタイトル。


【ナノマシン被検体に関する取扱い注意書】


「おい」

「なんじゃ?」

「な・ん・だ・こ・れ・は」

「ほっほっほ……これはの、ただのナノマシンじゃないぞい?」


 違う、そんな説明を聞きたいんじゃねえ。


「これは分子レベルのナノマシンに超高性能AIチップを埋め込んだもんじゃ。自己再生、自己増殖、自己進化――」

「ちょっと待て! それって俺人間やめてねえ!?」


 どこのデビルガ〇ダムだよ!


「このナノマシンを注入した事でお前さんの身体は正常に、いや以前よりも高性能になって改修リファインされたの――おぶっ!?」


 俺は怪しい爺さんの横っ面をぶん殴っていた。


「てめえもナノマシン注入して脳みそ修復しやがれ!」



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