第28話『デートの前に』
いよいよ今週末にまれちゃんとデートをする。
普段から一緒にいることが多い俺と彼女だが、これまで色々とあって今日まで恋人らしいデートをしてこなかった。
しかしようやくである。
ようやく俺とまれちゃんは恋人のようなデートをするのだ。
だからこそ絶対に失敗は出来ない。
念密な計画を練り如何に彼女を喜ばせるか……。
ふふっ、先週の理奈とのデートもない頭を振り絞りすぎて知恵熱が出そうになったが今回はその比じゃない予感がするぜ。
「だから協力して?」
「興味ねーよ」
「勝手にやってなよ」
ひどいよ二人とも……。
俺たち親友じゃなかったのかよ……。
週末を目前に控えたある日の昼休み。
俺は二人に誘われて昼食を共にしていた。
その場で俺は親友である二人に今週末のデートについて相談をしたのだが、如何せん恋愛に興味がない二人にはどうでもいい話題であったみたいで冷たくあしらわれるのだった。
「頼むよぉ! 俺今回も絶対に失敗できないんだよぉ!」
「そもそも今更過ぎるんじゃないの?」
「あれだけいちゃいちゃしてて今までデートした事が無いって意味わからねぇよ」
うっ……そこを突かれると辛い。
それには様々な諸事情があってですねぇ……、俺は二人に事情を説明した。
「まぁ……そういうことなら事情は分かるが」
「でもキミって変わってるからなんだろうけどさ、デートする上で僕たちが考えることってある?」
「何言ってんだ! 男なら女の子に喜んでもらえるようにデートプラン練るのは常識だろうが!」
「いや、聞いたことねぇ」
「普通女の子が考えるもんだよそれ」
……だよな、そういう反応になるよな。
やっぱりこの辺の感覚がいまいち浸透しない俺であった。
「でもさ、逆に考えてみようぜ? デートするからプランは女の子が考えてきました。けど実はこっちも考えてきている。もちろん彼女を尊重してエスコートされるのもいい、けれども意中の男がエスコートしようとしてきたら相手はどうなる?」
「どうなるんだ?」
「惚れること間違いなし! おまけに『え、じゃあそういうことなら……』って緊張しながらもそっと手を伸ばしてきてその手を優しく引いて歩き出す。女の子は『彼がどんなエスコートをしてくれるのかな?』と楽しみにし男は『彼女を喜ばせたい』この甘酸っぱい青春こそデートの醍醐味じゃないか!」
「うーんいまいちわからん」
こいつ……、微塵も心に来てないって顔してやがる。
……無理もないのか、だってこの世界の男って相手から惚れられてるのほぼ当たり前だし。
好きな女の子とデートするっていう概念がそもそもないのかもしれないしな。
相談する相手を間違えたという事。
この話題は止めて大人しく弁当を食べようと思っているとリンが思ってもないことを。
「ちょっと興味沸いたかも、考えてみようか」
「え?」
「マジか、お前」
リンが同意してくれると思ってもみなかったので呆気にとられてしまった。
「いつもグイグイ来てばっかの子を逆に手玉にとってやれるんでしょ、面白そうじゃん」
「え……」
「なるほどなぁ、そういうことか」
「ぎゃふんと言わせてやれるまたとないチャンスだしやってみようよ」
「おぉ、そういうことなら早く言えよ恵斗」
「ち、違う……デートってそんなんじゃない……っ」
俺の悲しみは伝わらず二人はノリノリに。
乗り気になってくれただけまだマシかぁ、いまいち納得いかないけど相談を続けることにした。
「そういや二人はデートしたことは?」
「誘われはしたが」
「あんまり興味ないし……」
お、お願いだから女の子にもうちょっと興味を向けて……っ。
慕ってくれる彼女たちが不憫でならないよ!
そんなんじゃ卒業までに婚約者作れないよ!
「相談する相手を間違えたような……」
「協力してやるっつってんのに失礼な奴だな」
「もう教室帰りなよ」
「いやほんとすみません」
謝りつつも頭を悩ます。
うーん、どうすればいいんだろ。
「デートはしたことないけど、僕だったら嫌なのはとにかく連れまわされることかなぁ」
「だな、あと集合時間が早いのはめんどくせぇな。午前指定とかされたら行かない自信があるぞ」
「ふむふむ……うん?」
二人のされたら嫌なことを聞いて思い当たる。
なんかこう……俺の知ってる元の世界の女の子側の気持ちみたいな……。
……そうか、この世界って男女比やら貞操観念も逆転してるからこういう考えも逆転してるのか?
多分一部のことなんだろうけど、今回に限っては凄く役立つ。
「そういう感じでされたら嫌な事挙げてくれないか? プラン立てるのに繋がりそうだ」
「そういうことなら簡単だな」
「そうだね、あとは……」
予想とは違う展開だったけど、思わぬ収穫だった。
二人の感覚的な違いに感謝して昼休みを有意義なものとして終えるのだった。
――
「もしもしりなちゃん?」
「まれ、どうしたの?」
とある日の夜、明日の支度を終えあとは日課である柔軟をしてから眠りにつこうと思っていた理奈は友人である希華から電話を受けていた。
「そのね、ちょっと……」
彼女にしては歯切れが悪い、いったいどうしたのだというのだろうか。
疑問に思いつつも先を促さず希華の言葉を待つ。
「……今度の日曜日にね、けーくんとデートをするんだけど」
「けーととデート?」
「うん」
彼とのデートと聞いてふと先週の出来事を思い出す。
あれは幸せな時間だった。
ずっと想っていた彼との初デート、隣に彼が歩いてて尚且つ手を握ってくれていた。
すれ違う人の『男の人と手繋いでる!?』『羨ましすぎる……っ』という羨望まみれの視線が正直気持ちよかったのは否めない。
当の本人である彼は何か勘違いしていたようだけど少なくともあの場で一番の高揚感を得ていたのは自分だったのだ。
ただ、今でこそ気持ちよかったと振り返れているだけど、当日は彼の手の感触と香り、いつもよりもさらに輝いて見えるオーラ、大好きな笑顔、その他もろもろで既に頭がいっぱいだったのでそこまで快感が回ってこなかったが少なくとも人生で一番充実した時間だったのは言うまでもないだろう。
彼にプレゼントしてもらったイヤリングは大事に保管してある。
これは彼とのデートする時だけ付けると決めているのだ。
――次はいつデート出来るかなぁ。
想いを馳せる理奈だった。
あんなに幸せな時間はきっとこれからも彼と一緒にいればいるほど訪れるだろう。
次にデートできる時が心待ちになるのであった。
「……聞いてるりなちゃん?」
「……へ?」
電話口ではちょっと怒った声の希華。
――しまった思い出を振り返っててトリップしていた。
慌てて彼女は謝罪をしもう一度訪ねた。
「ご、ごめんちょっと聞いてなかった。なんだっけ?」
「そ、そのね……けーくんとのデートって、その……どういう風に回ったの?」
「え、えーと、あー、そのぉ……」
マズいと理奈は思う。
希華は恐らく週末に備えて計画を立てているのだろう。
ちゃんと考え自分でエスコートするつもりなのだ。
しかし理奈は違った。
前日まで着る洋服すら用意していなかった彼女がデート当日までプランを何も考えていなかったのは最早言うまでもない。
結局元の世界の考えで動いている恵斗によって問題になる事すらなかったが、この世界は女性がデートする際の行き先を決めておくのが常識だ。
理奈の名誉の為に付け足しておくとその時の彼女は例の告白事件でショックだったのと、告白予告と言えるようなデートの誘いに喜びと驚愕で頭がいっぱいだったのである。
「さ、最初は昼過ぎくらいに東葛駅前で待ち合わせてね、そ、その後は金立にショッピングしに行ったんだよねぇ」
「ふむふむ……金立って回れる所いっぱいあるもんね、さすがだね理奈ちゃん」
「あ、あはは……ソウダネ」
普段の希華であれば彼女が当日何も考えていなかったのはすぐに察するのだが。
この時の希華も週末に向けての事で気が回らなかった。
心の中で希華に謝罪しつつもまるで自分で考えたかのように振舞う理奈。
恵斗と希華、互いに週末の事で頭を悩ませつつもいよいよその日はやってくるのだった……。
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