男女比のおかしな世界 ~人に優しい男が転生しモテる人生~
ヤニ―
第1章『この世界の男女比はおかしい』
第1話『モテなかった人生』
俺はモテなかった。
男なら一度は夢見たことがあるはずだ。女性からモテたい、キャーキャー言われたい。
テレビで有名な男性アイドルが黄色い声援を浴びているのを見て、俺もモテたいと思ったのだ。
子供だった俺は父にどうすればモテるのか尋ねた。
父はそんな俺を見て優しい笑顔を浮かべながら『人に優しくしなさい、誰にでもね』と言った。
『人に優しく』この言葉は自身の座右の銘にした。
学生時代、勉強やスポーツも並みで顔面偏差値もこれといって特筆する所もない程度、友人関係は『人に優しく』を心掛け男女隔たりなく接することを意識した。
その成果もあって友人関係は良好で、親しい女の子も多かった。ただし恋人関係にはなる事が無かった。
――『バンドをやればモテるよ』
イケメンのバンドマンはそう言った、だからギターを買って軽音楽部にも入った。
初めはギターの弦を抑える指が痛くて練習後は水膨れになったりもしたが俺はモテたかったから頑張れた。
歌う事は好きだったしボーカル&ギターで学園祭に出て盛り上げることもできた。友人たちからも『かっこよかったぞ!』『凄い上手かったね!』と称賛もされた。
でも結局モテなかった。
理由は簡単で、助言をくれたバンドマンと違って俺はイケメンではなかったからだ。
――『生徒会に入れば目立つからモテるよ。』
友人の一人がそういったから生徒会にも立候補した。
生徒会長に当選することは叶わなかったが、副会長として業務に徹した。
会長にも『君が副会長で本当によかったよ』と賛辞も受けたし、後輩から聞いた話だが『困ったことがあれば副会長へ』は生徒間で有名だったらしい。
けれどもモテることはなかった。
簡単な話で生徒会長の存在がイケメン的な意味で大きすぎた。
試験も学年トップ、スポーツをすれば大活躍。彼に比べたら副会長の俺は大したことはなかった、何をしても彼が一言何か発すればすべて持っていかれる。
『彼はヒマワリ、それに比べれば俺は日本海の海辺に咲く月見草だ』と有名スポーツ選手の名言もパクらせてほしいぐらいの気分だった。
一度だけ告白もした。卒業も間近になった時、気になっていた一人の女子が今もフリーであると情報通の友人から教えてもらい、クラスメイトに協力してもらって6人くらいでレジャーランドに遊びに行った。
そして彼らの計らいで二人きりになった所で告白をした。けれども帰ってきた返事は『ごめんなさい』『いつも誰にでも優しいから特別な目で見れなかった』だった。
何かが崩れ去るような感覚だった。
常に心掛けていた『人に優しくあれ』先輩後輩、老若男女関係なく常に優しく接することを心掛けた。
モテるということは人に好かれるということ、つまり優しい人間であると心から信じていたから。その後はどう取り繕ったか覚えていない、けれど卒業まで彼女と今までと変わりなく接していた事から振られた直後でもきっと俺は優しかったんだろう。
学生を終え、社会人になった頃にはモテたいなんて気持ちは胸の奥底に眠ってしまった。
内申点的な物は上記の活動もあってかそれなりに高く至って普通の会社へ就職でき、ブラックな労働環境がうるさいこの世の中で多少の残業はあったが、それ以外はまともであるので時間は自分に費やし休日はすっかり趣味となったギターやWEB動画を見て過ごし、時間があればジョギングや料理にも没頭して今の生活に何も不満がなかった。
そんな時だった。
「なんだこの広告……」
外は雨で休日にやることがなかった俺はWEB動画を見ようとパソコンを起動した。
有料会員ではないので動画の初めには広告が流れる。
大抵は30秒くらいすれば終わるのだが画面はいつまでも変わることなく。
『貴方はモテたいですか?』
この表示で止まっていた。
更新ボタンやブラウザバックも試したが結局はこの画面に帰ってくる。
パソコンの電源を落とそうとも考えたが『モテたい』の文字にふと胸の奥底にしまい込んだはずの欲望が再燃しつつあった。
本当なのか?
もう三十路も近いんだぞ?
モテたい以前に一人の結婚相手を探す努力をすべきなんじゃないのか?
先月参加した同窓会ではまだ独り身の者も居たがその数は徐々に減って、未だ独身どころか女性との付き合いもないのは俺くらいなのではないかと不安にも駆られてしまったんだぞ。
それに上司との飲みに付き合えば『結婚はいいぞぉ』が口癖で愛想笑いがいつもの流れ、仕事場の同期はほとんど結婚してしまったし、仲の良い同期も結婚してからは子供の自慢話が増え毎日相槌を打つ日々ばかりだ。
そんな状況なのに本当にいいのか俺?
絶対に考え直すべきだ!!
だけど……。
『貴方はモテたいですか?』この文字から目が離せない。
そして気づけば俺は画面下の『YES』を押していた。
この広告はどうやらアンケートみたいだ。『貴方は女性が好きですか?』『好きな女性のタイプは?』『貴方の得意なこと苦手なことは?』等、時に選択、時に記述式でアンケートを答えていく。
「なになに……?『今の貴方が生まれ変わるとして変えたいものは何ですか?』か……。やっぱりイケメンになりたいよなぁ」
モテモテだった学生時代の友人を見て思った、所詮この世の男は顔が全てだと。
一つ一つの質問を真剣に回答していく。時間にして約30分くらいだろうか、最後の質問と表示がされた。
『女性に優しくすることが出来ますか?』
……なにを当然なことを、女性に優しくすることは男として当たり前だろう。
あの振られたときに崩れ去った『モテたい』想い。けれども『人に優しく』これだけは今も変わらずに残っている。俺は迷わずYESを押した。
『おめでとうございます、貴方は資格を得ました。私たちの世界に招待します。一人でも多くの女性を幸せにしてください』
目の前が真っ白に包まれて俺はそこで意識を手放した。
「生まれた! 生まれましたよ! 元気な男の子です!!」
「(……え?)」
なんと俺は赤ちゃんになっていた!!
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