ひつじにからまって

羊毛と緑

シャボンの夢が破れたら

好きなことをしている彼女はとても素敵で、僕は上手でもないのに一緒になって絵を描いた。


「君の方が上手だね」


カシュガイのような絨毯を真似して描いてみたり、ふたりで一緒に近所の子供達と飛ばしたシャボンを描いてはぼくは彼女にこう言った。

彼女はそれをとても喜んで、その都度僕にキスをしてくれる。


「わたしはあなたより描いた時間が長いから、そう思うだけよ。あなたがうんと天才だったらまた違うのでしょうけど、わたしの絵はうんと天才には勝てないわ」


キスした後に、決まって彼女はそんな弱音を吐く。

それは交情の合図であると同時に、僕たちがどうしてこんなクーラーもない田舎に逃げ込んだのかを思い出す言葉だった。


それでも彼女はまだ筆を握る。

風邪をひいたときであろうと、畑仕事で手にまめができてしまったときであろうと、そうしなければ生きてはいけないとでも言うように、一心不乱に筆を握る。


僕は彼女が筆を握ることについて、まだ言うべき言葉を見つけられずにいる。

彼女が聞きたい言葉と僕が言いたい言葉が同じになるまで待つつもりだ。

その言葉が見つかるときまで、僕は彼女の横でへたくそな絵を描き続けようと思う。


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