第11話 心新たにしたよ、グシャート君

 『ルルーシュタ』の足跡を探すこと数時間。

 なんの成果も得られないまま、無駄に時間を消費していた。そうとしか思えない僕とは裏腹に、サイルはずっと真剣に文献を漁っている。

 ここは諦めよう。そう彼女に声をかけようとした時だった。


 「ちょっとぉ、グシャート? アンタぁ、また馬鹿なこと考えているでしょう?」


 レナジェが僕にそう声をかけてきて、思わず固まってしまった。えっ? 僕はそんなにわかりやすいのか?

 そんな疑問に答えるかのように、彼は続ける。


「丸出しもぉ丸出しよぉ? ……ちょっと表に出ましょうかぁ?」


 熱心に未だ資料を読みふけっているサイルのことを館長に任せて、僕達は一回外に出た。人気のない路地裏で、向かい合うとレナジェが呆れたため息を吐きながら、僕に向かってはっきりと告げた。


「アンタぁ、みっともないわよぉ?」


 ぐさり。その言葉は僕の胸に思い切り突き刺さった。「みっともない」……その通りだ。


「レナジェ……」


「いい? アンタのその諦め癖はぁ正直もう治しようがないけどぉ。だからってサイルにそれを向けるのはぁ、愚かよぉ?」


 またしても突き刺さるその言葉に、僕は思わず顔を伏せる。全て、全てその通りなんだ……。

 そう、僕はみっともなく……サイルに嫉妬している。あのまっすぐさが眩しくて辛くなって。これじゃあ、前とちっとも変わっていない。


「なぁ、レナジェ……。僕はどう……サイルと向き合えばいいんだろうか?」


 聞いたって意味がない。それはわかっている。だけどつい、口から出てしまった。そんな言葉に……彼は静かにだけど思ったよりも優しい声色で答えてくれた。


「なりたいアンタがぁ、いたはずよぉ?」


 なりたい自分。腑に落ちた気がして、僕は決意を新たにした。


「レナジェ……サイルを手伝ってくるよ」


 僕の答えに満足したのか、レナジェが頷き僕達は再び図書館へと戻って行った。


 ****


「グシャートたん! レナジェ先生! サイルね、サイルね!!」


 中に戻るなり、目を輝かせたサイルが僕達を出迎えた。なにか手がかりを掴んだのだろうか?


「あのねあのね! ルルーシュタさんのお話見つけたのん!」


 ……やっぱり、サイルには敵わないな。


「そっか。じゃあその話、詳しく教えてくれないかな?」


 僕がそう尋ねれば、彼女は一層嬉しそうに手にしている古い新聞だろうか? を手にして、近くのテーブルに広げた。

 大きな見出しには竜についての記述はなかったが、サイルが見つけたのは小さな、本当に小さな記事だった。


『小竜を助けた女、ルルーシュタの判決確定』


 この記事の内容からはポジティブな情報は得られないだろう。それでも……僕は彼女と共に向き合うと決めた。なにがあっても――。

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