第32話 実践訓練

 開いた扉の先にはバスケットコート3面が横に並んだくらいの大きさの空間が広がっていた。天井はとても高く、開放感のある空間だった。

 訓練場にはすでに何人かの人がいて、アグニが入ると入り口の近くにいた人は振り返った。アグニはそそくさと更衣室に向かい、支給されたスーツに着替えた。黒地に白いラインが入ったスーツで、伸縮性はそこまでないしっかりとした生地だった。しかし来てみるとかなり通気性はよく、汗をかいてもそこまで気にならなそうな感じがした。


 着替え終わったアグニは更衣室をでて、一番近くにいた人の方に向かって近づいて行った。しかし声をかけるようなことは出来ないので、壁に寄りかかって周りを眺めることにした。訓練場にはアグニを含めて全部で9人の人がいた。

 そのうちで女性は2人だけで一人は走り、もう一人は端っこで体育座りをしていた。男の方は2人が話しているのとストレッチのような物をしている人を除けば、壁に寄りかかったりうつ伏せで寝ているだけで、何もしていなかった。


 少しすると扉が音をたてて開き、見たことのない背の高い男の人と女の人が入ってきた。二人ともアグニたちと同じような格好をしていたが、ラインの色が白ではなく青だった。黒地に青というのは何とも言い難い格好良さがあった。

 女の人が訓練場全体に向かって声を出した。


「始めるから集まってください!」


 その声は覇気のようなものに満ちていて、自然と気が引き締まるような感じがした。近づいてみてわかったのだが、女の人はアグニと同じくらいの身長があった。


「君たちの指導教官になりました、風早かざはや りんです。探索者階級はドミニオン級(レベル6)です」


「同じく六角ろっかくだ。階級はスローン級(レベル7)だ」


 探索者階級というのは探索者協会が認定している世界標準の階級で、その階級以下のダンジョンになら探索に行くことができる。しかし今のところ地球に存在する遺跡で難易度が『ケルビム級(レベル8)』以上のものは存在したことがないので、今のところ認定されている最上位の級はケルビム級だ。

 だがケルビム級(レベル8)も世界的に見ても13人しか存在していないため、現実的な最上級位はスローン級(レベル7)ということになる。


「君たちには3か月でプリンシパル級(レベル3)まで階級を上げてもらいます。もしできなければクビだから頑張ってほしいです」


「我々の訓練を毎回しっかりとこなすことが出来れば十分に可能だから心配しなくていい」


 六角さんはそう言ったが、レベルを上げるというのはそんな一か月や二か月で出来るようなことではない。一つ上げるだけでも通常は1年以上かかるのだ。


「それじゃあ今回は初回なのでみんなで自己紹介をしてから始めましょう」


「名前、年齢、出身、得意なこと、それから意気込みを聞かせてほしい」


「じゃあ時計回りで行きましょう。君からだね」


 そう言って風早さんは一番近くにいた男の人に声をかけた。

 男の人は何か話し始めたが、アグニの耳には何も入ってこなかった。自分が何を話そうかと考えるのに必死だったからだ。

 しかしアグニが考えていると、聞いたことのある声が聞こえてきた。


一条いちじょう 遥奈はるなです。20歳、東京出身、近接格闘が特に得意です。一条の名に恥じないようにしたいです。以上」


「君が一条さんね、なるほど――」


 どこで聞いたのか思い出せなかったが、どこかで聞いたことがある気がする。アグニがそう思って一条の方を向いていると、彼女は視線に気がついた。しかし特にどうすることもなくアグニの視線を無視しただけだった。


(あんなにかわいかったら忘れるわけないんだけどな……どこでみたんだろ?)


 アグニは極度に緊張していたせいで覚えていなかっただけでSSCの面接で彼女とはあっていたのだ。そんなことを考えているとアグニの番がやってきた。


「え、あ、熾 火天です。20歳で東京出身です! え~っと、走るのと、え~、殴るのが得意です……はい」


「意気込みは?」


「あ! え~、そうですね、熾の名に恥じないように頑張ります」


「アッハッハッハ、今年は面白いですねぇ! こっちは一条、こっちは熾、それでこっちは持明院、いいねぇ~、育て甲斐がある!」


「それじゃあ訓練を始め――」


「ちょちょ! まだ私たちの紹介ちゃんとしてないじゃないですか!」


「そんな紹介するようなことないし別にもういいだろ」


「ダメですよ! これから長い付き合いになるんですから!」


「いやそのうち分かるんだから今はいいだろ。それじゃあ第一回の訓練を始める」


 六角さんがそう言って記念すべき初めての実践訓練が始まった。





――――――――――――――――――――


<階級表>

セラフィム級(レベル9)

 (まだ存在しない)

ケルビム級(レベル8)

 (世界でみても熾 燦志郎含む13人のみ、人卒業)

スローン級(レベル7)

 (トップオブトップ、人なのかな? 最上級探索者というとこのランクの事を意味する)


~努力の限界~


ドミニオン級(レベル6)

 (人をやめ始める)

ヴァーチュス級(レベル5)

 (上級探索者と呼ばれるようになり、物理法則を無視し始める)


~ここに壁がある~


パワーズ級(レベル4)

 (中堅、ほとんどの探索者はここで終わる)

プリンシパル級(レベル3)

 (まあ一人前。ここからはプロライセンスとして認定される)

アーク級(レベル2)

 (レベル1になった者の中で上位半分くらいのイメージ)

無印級(レベル1)

 (頑張れば誰でもなれる)

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