量産型貴族令嬢モブ』計画は一定以上の効果があったらしく,

終始,退屈そうな顔の令嬢に誰も注目することはなかった。


交流が広がることがなければ,

今後登場するヒロインや発生する修羅場に引っ掛かる可能性が低くなる。


ぼっち上等!!今生こんじょうもお一人様が決定しましたが…

背に腹は変えられません。


特に,王族やその周囲の貴族の男の子は側近候補だったりするので,

つまりそれは将来の攻略者候補だと言うことだ。


下手に関わり目をつけられたり,記憶に残る訳にはいかないし

対策として行動した結果が全て裏目に出て,

万が一にも『おもしれぇ女』枠になったら冗談じゃない!!


関わるだけ眠くなる,退屈なお人形みたいな大人しいご令嬢を演じ,

頃合いを見計らって脱出する予定だ。


本当は,童話のお城のような王城を観光客気分で見て回りたかったし

お菓子や軽食を,もっと楽しみたかった。


だが,長居すればするだけ

こんな悪役ちっくな見た目の公爵令嬢と仲良くなろうなんて『良い子』や

ぼっちに声をかけて,仲良くしようとする『良い子』が出現しかねない。


そして,そんな子は,きっと周りからの評価も高く,

王族や高位貴族の婚約者候補に今からノミネートされているだろう。


うっかりそのまま仲良くなって

『ヒロインの友人なのに,嫉妬から意地悪した令嬢』

と言う話になる可能性もある…。


マンガの読みすぎ?

創作と現実の区別ついてない?

被害妄想激しすぎて引く?


なんとでもいえば良い。

令和のブラック勤務のアラフォーお一人様が転生して,

ご都合設定の異世界ファンタジーで生きてる以上,何が起こっても不思議じゃない


どう話が転がって『断罪』や『没落』などの破滅を迎えるか分からないのだ。


何より,『断罪』はわたし個人だけの問題ではない。

家族や親戚縁者,屋敷で働く人たちなどの一族郎党や

公爵家の領地に住む人々の迷惑になるのだ。

用心しすぎて悪いことはない。



帰城する子がチラホラ出始めたあたりでわたしも帰ることにする。

理由は体調不良でも構わないだろう。

嘘くさくとも,面と向かって詰問もされたりはしないはず。


取り巻きに囲まれている王子さまに,申し訳なさそうに頭を下げ

『体調不良』による退席を詫びれば,

社交辞令として『お大事に』と返事を受けて終了。

特に咎められることもなく庭園を後にすることができた。


夜明け前から身支度したのに,滞在時間は驚くほど短かったが,諦めるしかない。


今後も子供だけでの交流会はもよおされるし,わたしももよおす必要がある。

爵位や家門の付き合いがある以上,

子供とはいえ何もしないのは『貴族の令嬢』としては論外だ。


それこそ,同じ年齢の王子がいる以上は

頻繁に王家主催のお茶会や『なんちゃら会』が催されるだろう。

王家からの招待を現役宰相の娘が毎回断るのはいくらなんでも不味まずい。


待機していた公爵家の家紋入りの馬車に乗り込み,

背後にそびえる城壁とその向こうの王城をチラリと見る。

公爵家の屋敷も相当広いと思っていたが,

国主たる王の住まう城であり政治経済の中心の建物は別格の広さだった。


国家の権力の象徴を見ながら,

いずれ現れる(と想定している)ヒロインは,どんな子なのだろうか,と考える。


例え低くとも貴族身分の子だったとしたら,王族に嫁ぐという事の意味を

王の隣に立つその重さを教えられないはずがない。


別の家庭に入るだけでも,それまでの生活様式からはガラッと変わるし

一つ上の爵位になっただけで求められる振る舞い方が違う。


平民のヒロインが玉の輿でハッピーエンド…は良くあるストーリーだが

現実として,貴族位もない少女を伴侶にすると言い出す王子を

王や貴族がどう判断するのか理解しているのだろうか??


現代知識もある元日本人のアラフォーとしては

一応,平民(お金持ち)とかが皇室に嫁ぐや降嫁するなど聞くし

外国の王室も,女優が王子と結婚とかニュースで聞いたりしたけど


ガチガチの身分制度で設定されているこの世界で

王子が『ボクこの子好きになったから結婚する』と

平民,それも富豪でも豪農でもなく普通の一般市民を連れてきたら…


かつて様々な『そういった』創作物を楽しんできたが,

現実にその世界の住人になってみると

夢とロマンに満ちた素晴らしいお話なんて,とても思えない…。


少なくともわたしは,

王族に嫁ぎ,王家の一員として振る舞うとか,絶対に嫌だ。

恩恵よりも責任が重すぎる!!


それでも,真っ当にシナリオ通りのヒロインが

愛と希望で持って世界を救ったりついでに王子も射止めたりした結果,

王子と結婚します,しかも王子がその後王様にジョブチェンしました!!であっても

それが,この世界のシナリオなら仕方ない。

あとは,宰相の公爵父さまほか家臣の方々に頑張ってもらうとして


これまた良くある転生もの創作の

『記憶あり転生ヒロイン(性悪)』がのハーレム目指して暴れ回り

有力貴族や王族の後継者がポンコツにされた日には…


(『国』が滅びかねない!!)


『オツムお花畑ヒロインではありませんように!!』

『転生してても良いから,一途に真面目に攻略して幸せ目指してくれ』

と,祈らずにはいられない。


徐々に小さくなるお城に,必死に日本人式に手を合わせ拝み倒す。


帰り道に,王都の女神教の聖堂前も通るから,そっちにも祈っておく事にして

正面に向き直った辺りで,やっと王城の外壁を越える。


城壁だけを見ても相当な高さになるが,重機もなしにこんな建造物ができるのは

単に『魔術』のおかげだ。


空中に浮きながら,重い建材を浮かせて設置。

身体強化で軽々運び,疲れ知らずに連日作業。

保護や強化を施せば,経年劣化もしにい。


何十年も掛けて作られる建造物とか,この世界なら一瞬で出来てしまいそうだ。


味気ないとか有り難みが薄いと感じるのは

手間暇かけて作られたものこそ尊いと,魂に刷り込まれているからだろう。

手作業で膨大な資料チェックさせられたり,外回り何百件とさせられて

培わされた価値観だ。


あ〜捨てたい。


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